第8話 告白
食事を終えたギルドの空気は、夜の柔らかい熱を帯びていた。
白髪の少女はまだ周囲の視線に慣れていないようで、時折きょろきょろと辺りを見回しては私の隣に視線を戻す。
最初に会った時よりは少し表情が柔らかくなっていた。
スープを飲み干す瞬間のほっとした顔、パンをかじる時の小さな笑み――そういうのが妙に胸に引っかかる。
「先に風呂、行こっか」
声をかけると少女は一瞬だけ瞬きをしてこくんと頷く。
廊下に出るとさっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かだ。
床板の軋む音と壁のランプの小さな揺らぎだけがふたりを包み込む。
「こっちがトイレで、その隣が洗面所。朝は人で混むから早めに使った方がいいよ」
案内をしながら歩く。
少女は素直に頷くと、時々ちらっと私の顔を見上げるのが分かる。
……いや、だからそういう目をやめなさいって。
心臓に悪い。
脱衣所の引き戸を開けると、ふわっと石鹸と湯気の混ざった匂いが流れ込んできた。
ちょうど時間が良かったらしく誰もいない。
「今なら空いてるね」
そう言って中へ入ると少女も少し遅れてついてくる。
木の棚と籠が並ぶ空間は湯船からの蒸気でほんのり温かい。
私は先に上着を脱ぎ、腰のベルトと小さなポーチを外して棚に置く。
髪をざっとかき上げながら振り返ると少女はまだ入り口付近で足を止めていた。
指先が微かに揺れて、唇が一度、何かを言いかけて閉じる。
「どうしたの?」と聞くと、「あ、いや……」と曖昧に笑う。
その笑顔は一瞬で崩れて、また視線が泳いだ。
まるで、何かを言うべきかどうか天秤にかけているみたいに。
(……なんだこの空気)
そんなことを考えながら私は脱ぎ続ける。
革のチュニックの留め具を外し、肩から滑らせ――
「ま、待って!」
急な声に手が止まる。
振り返った瞬間、少女は真っ赤な顔で両手をぶんぶん振っていた。
そして息を整えるみたいに一度目を閉じると、小さく、けれどはっきりと言った。
「……ぼ、ぼく……じゃなくて、自分、男なんだ」
――時間が止まった。
湯気が揺れる音すら聞こえそうな沈黙。
耳に入った言葉が頭で意味を結ぶまで数秒かかった。
(男……? いや、でも……あの髪も、瞳も……可愛いすぎるだろ! 落ち着け、カレン。驚き顔は出すな、呼吸整えて……よし)
「あ、そうなんだ」
声は冷静だった。……少なくとも表面上は。
頭の中では計算が走る。
(こんな可愛い見た目の子を男湯に入れたら……絶対危ない)
(でも女湯は……今は誰もいない)
「そ、そっか。じゃあ先入って良いよ」
そう言って、棚の端に歩く。
タオルと――ふふ、小花模様にレース付きの寝間着を籠に置く。
(似合わないはずがない)
「……うん」と返して浴室へ消える後ろ姿を見送りながら私は息を吐いた。
(……ほんとに男なの? 嘘じゃないよね?)
(いやでも……似合うんだろうなぁ、あの寝間着)
頭の中で「やめとけ理性」と「見たい欲望」が全力で殴り合う。
気づけばシャワーの音だけが響く空間で、私の鼓動だけがやけに大きくなっていた。
(……さて、覚悟しておけよ私)
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