第5話 内容
朝食後、アクスさんに見送られながら僕たちは冒険者ギルドへと向かっている。僕は街に初めてきたから全く方向がわからないから、フォスについていく形になっている。
「僕もフォスに出会えなかったら、この街で迷子になってたところだよ」
「……出会って間もないけど、ヴィントの世間知らずっぷりというか、大物っぷりはなんとなく理解してきたわ」
「あんまり褒められてないよね?」
「褒めてなくもないかな——っと、この先を右ね」
フォスの言う通りに右に曲がる。
朝も早いというのに、外にはすでに沢山の人がいる。騎士や冒険者だろう人たち、魔法使いのような人たち、それから市場で売り物、買い物をしている人——ネーベルホルンにいたらこんな光景は見られなかった。
でも、時折ちらっと特に女の人からの視線を感じる。やっぱり、服装を早く変えないといけないみたいだ。
「僕の服装目立つよね」
「服装云々の問題じゃないと思うけど……」
「えっ!? 服装以外にも気をつけないといけないところがあるの!?」
格好でおかしなところを見てみるけど、僕にはわからない。僕にわからないところに問題があるんだとすると、どうにもならない。
僕は冒険者としてお金を稼ぐ事ができたら、仕送りのお金をのぞいて、まずは服装をどうにかしようと思っている。
あんまり視線を受けないように、気持ちよく外を出歩くために!
現段階ではどうすることもできない服装のことを考えるのはやめよう。
「それにしてもすごい人だね!」
「そうね。私の故郷もここまで大きな街じゃないから、なんだか新鮮に感じるわ」
「そういえば、フォスはどこから来たの?」
「『インゼルエンデ』っていう港のある村よ。ヴィントの故郷よりかは多分大きな村だと思うわ——って、どうしたの? 難しい顔して」
フォスの言った『インゼルエンデ』という言葉を聞いた瞬間、頭の中に何かが思い浮かんだような気がした。一瞬だったから何なのかはわからない。ただ、フォスに似た銀髪の女の子の顔が思い浮かんだように感じた。
今のは一体なんだったんだろう?
「ヴィント?」
「うわっ!?」
フォスが顔を覗き込んできたから、思わず声を上げてしまった。
「どうしたのよ急に、黙り込んじゃって?」
「ううん、なんでもない。聞いたことない村の名前だなぁって思ってさ」
「……ヴィントに言われても傷つかないのはどうしてかしら?」
これは確実に馬鹿にされているのだろう。
確かに、僕の住んでいた『ネーベルホルン』はかなりの田舎かもしれない。だけど、世間知らずということをあんまり言われ続けるのも気持ち良くない。このままじゃただの世間知らずの男としか見られなくなってしまう。
少しはすごい事ができることを見せておきたい。
でも、何をするとフォスにすごいと思ってもらえるのかがわからない。ドラゴンを倒せることはすごいみたいだけど……。
腕を組んで悩んでいると、フォスが手を叩いた。
「ヴィント、ついたわよ冒険者ギルド!」
「えっ!?」
フォスが指差した先を見ると、石でできた門に剣と盾の紋章が描かれた一際大きな石でできた建物が目についた。
「これが冒険者ギルド……」
門の中へと入っていく屈強な肉体をした男の人や、動きやすそうな装備だけど大きな剣を持った女の人など、見るからに強そうな人たちが出入りしている。
早い時間だからなのか分からないけれど、あまり僕たちと同い年くらいの人の姿は見受けられない。
「……あぁ、周りの人を見てたら緊張してきた!」
フォスがギルドに出入りしている人を見たからか、立ち止まって頭を抱えている。見るからに強そうな人たちを見て、試験内容も難しいと思ってしまったのかもしれない。
僕の陳腐な悩み事は後回しだ。
僕はフォスの手を握って、笑いかけた。
「大丈夫! 僕も一緒にいるからさ。行こ!」
フォスは少しの間逡巡している様子だったけど、顔を赤くして頷いた。
「……うん」
「よーっし、頑張るぞ!」
僕はフォスと手を繋いで、駆け足でギルドの門を潜った。
★
建物の中に入ると、正面には大きなカウンターが見える。近くにある掲示板から紙を取って持っていっている人がいる。
その付近には飲食をしている人たちがいる。豪快な声で笑ったりと朝なのにすごく活気が溢れている様子だ。
「……うわぁ、すごく賑やかだ」
「そ、そうね」
ギルドの中の様子に呆気に取られていると、カウンターから女性の声が聞こえてきた。
「あら、昨日の強そうな男の子じゃない! やっぱり来てくれたのね!」
声のした方向を見ると、昨日宿の場所を聞いた赤髪の女性がいた。ドレスのようなひらひらのついたワンピースを着ている。
どうしてこんなところにいるのだろうか、と思っている次の瞬間位は女性がカウンターを乗り越えて僕に向かって走ってきた。そのままの勢いで女性は僕に抱きついた。
いきなりのことで僕もどう反応して良いかわからず、女性に抱きつかれたまま呆然としてしまう。だけど、すぐに嬉しさもあるけど恥ずかしさも込み上げてきて、全身が熱くなってきた。
それに、特に周りの男の人の視線が怖い。武器に手をかけている人もいるし……。
「……す、すみません、離してくれませんか」
「ご、ごめんね。嬉しくてつい……」
女性が僕から離れてくれた。
名残惜しくないと言えば嘘になるけれど。
「ヴィント、知り合いなの?」
どういうわけか、フォスの声色が少し刺々しく感じる。
「知り合いと言えば知り合いだけど——昨日、宿の場所がわからなくて、宿の場所を聞いた人だよ」
僕はありのままの答えをフォスに伝えたけど、女性は手を胸の前で組んでニコッと笑った。
「あれは、まさに運命的な出会いというものね。だって、夕刻の街で声をかけられたのだから」
「……って言ってるけど?」
フォスの顔が少し怖い。声色も相変わらずいつもよりも低いように感じる。
どうして怒っているんだ!?
ただ、女性の言ってることも間違いではないと言えば間違いじゃない。確かに夕方に声をかけたのだから。
どうフォスに弁解したものかと頭を抱えていると、女性がクスッと笑った。
「うぶなところも魅力的ね!」
からかうような声で言うと、女性は頭を下げた。
「自己紹介がまだだったわね。ヴァンデルブルグ冒険者ギルドで受付をしている、イディアよ。よろしくね!」
顔を上げたイディアさんに僕たちも自己紹介をした。
「ヴィントくんにフォスちゃんね」
忘れないようにするためか、僕たちの名前を口にした後で、イディアはフォスに視線を向けた。
「フォスちゃん、大丈夫よ。まだ、ヴィントくんのことをどうこうしようとは思ってないから。でも、ヴィントくんが私の思う以上に強ければ、話は変わるけど」
「わ、私は別に!」
二人はなんだかよくわからない会話をしている。頭の後ろで腕を組んで見守っていると、イディアさんが咳払いをした。
「それでは本題に。二人とも本日は、冒険者ギルドの入会試験を受けにきた、と言うことで間違いない?」
フォスに目配せをした後で、一緒に頷いた。
イディアさんは頷くと、手でカウンターを示した。
「詳細はカウンターで話しましょう。ついてきて」
イディアさんの後を着きながら歩いているとボソボソと周囲から『あの冷たいイディアさんが久しぶりに嬉しそうにしてるぞ』『悔しいけどあのガキ、見た目だけは男前だからなぁ』などと言う声が聞こえてくる。
「……フォス、周りの人の圧がすごいね」
「全部、ヴィントに対してだけどね」
「なんで僕にだけなんだよ!」
「知らなーい。イディアさんに目をつけられてるからじゃない?」
昨日声をかけたのが間違いだったのか!?
あの時は、いい人に巡り会えたと思ったんだけどなぁ。
肩を落としながら歩いて、カウンターの前まで行くとイディアさんはまたもカウンターを飛び越えて奥へと入り、くるっと回って僕たちの方を向いてきた。
隣のカウンターで受付をしていた少女がカウンターから離れたところで、イディアさんが口を開いた。
「じゃあ、早速だけど試験の話をするわよ」
キリッとした表情に変わったイディアさんの顔を見て、今までの考えは全部吹き飛んだように感じた。
真剣な表情に僕も唾を飲んだ。
「試験内容は——」
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