第4話 翌朝
翌朝。
久しぶりのベッドでの睡眠だったことに加えて、フォスやアクスさんと色々と話をすることが出来て、幾分か気持ちの落ち着いた僕は、よく眠ることができた。
昨夜、フォスと部屋を別れる前に冒険者ギルドまでは一緒に行こうと話をしていたのだけれど、フォスが僕が借りている部屋の扉をノックして起こしてくれなかったら、まだまだ寝ていたところだった。
「……ヴィント、本当に緊張してるの?」
身だしなみを整えてあくびをしながら部屋を出ると、フォスが胡乱げに僕の顔を覗き込んできた。昨夜は緊張していると言っておきながら、ばっちり熟睡できていれば不審に思われても仕方がない。
でも、緊張はしているのは事実だから僕は頷いた。
「緊張はしてるよ。村からここまで来るときは緊張して全然眠れなかったし、食事だって喉を通らなかったんだ」
「昨日はドラゴンの肉をすごく美味しそうに食べていたけど?」
「だって昨日は、フォスやアクスさんと久しぶりにたくさん話ができて嬉しかったんだもん!」
フォスの表情はまだ胡乱げだ。
「なんで信じてくれないんだよー!」
すがるようにフォスのことを見つめると、フォスはクスッと笑い出した。
「ふふっ、冗談よ」
「もー、あんまりからかわないでよ」
「私も、こうしてヴィントと喋っていると落ち着くんだからいいでしょ?」
そう言われると、僕もフォスと話していると今に集中できている気がして、緊張している気持ちが少し和らぐ。
お互い様だ。
「わかった。僕もフォスと話してる方が落ち着くからさ」
お互いに微笑み合う。
「じゃあ、宿で朝食を食べたらギルドに向かいましょうか」
頷いて宿の食事処へと向かう。外は晴れているようで、窓から日の光が差し込んでくる。鳥の鳴き声が聞こえてきて心地いい。
「ところで、冒険者ギルドの試験ってどんな内容なのかフォスは知ってる? 僕、その辺りも知らないんだよね」
「ヴィントってば……でも、試験内容は公開されてないの。それに、聞いた話だと毎回内容が違うんだって。だから、対策しようがないのも事実なのよね」
「そっか……」
そうなると、出たとこ勝負ということになる。
「冒険者を目指すんだから、この辺りを冒険したりするのかなぁ」
思いつきを語ると、フォスは人差し指を立てて唇に当てた。
「そうなると、そこで何かを見つけたり倒したりするのかもね」
「探索なら僕、得意だよ! 今まで田舎の村に住んでたからね!」
拳を握ってやる気満々のアピールをすると、フォスが手を合わせた。
「それは心強いわね!」
笑顔で言われて頭の後ろをさすっていると、宿の食事処に到着した。
早朝ということもあり、食事処に人は少ないけれど、アクスさんが新聞を読みながら安楽椅子に腰をかけていた。
僕たちが来たことに気づくと、アクスさんは新聞から顔を上げた。
「二人ともおはようさん。坊主はよく眠れてそうだが、嬢ちゃんは緊張して眠れなかったみたいだな。目の下にクマができてるぞ」
「緊張して、あんまり眠れなかったんですよね」
昨夜は二人とも興奮していたけど、今ではすっかり落ち着いて話ができているようだから良かった。
二人で席へと向かい、僕はフォスの前に腰をかけた。
「緊張してても朝ごはんはしっかり食えよ。腹が減ったらできるもんもできなくなるからな」
アクスさんは朝食を用意すると言って、厨房へと向かって行った。
「アクスさんの言うとおりだね。朝ごはんはしっかり食べよう!」
「そうね……あぁ、でもやっぱり緊張する!」
フォスはそう言ってテーブルに突っ伏してしまった。
どうしたものかと僕は頭の後ろに手を当てる。
僕も緊張してるけど、フォスは僕以上に緊張してるみたいだ。確かに、どんな試験内容なのか全くわからないから無理もないか。
それに、内容は毎回変わると昨夜フォスも言っていた。
そんな中で僕にできることは『風の魔法』と『剣術』だけだ。村にいても特にすることがなかったから、村の人に教えてもらった魔法や剣術を暇さえあれば練習していた。ちょっとしたカッコつけた技も考えている。
そういえば、フォスは冒険者として何が得意なんだろう?
気になり尋ねてみると、フォスは顔を伏せたまま答えた。
「『
「どうして?」
フォスがそう言う理由がわからないから、首を傾げていると、フォスは顔を上げた。
「魔法は使えるけど、戦闘経験はあんまりないのよ。魔物と戦ったことなんて一度もないわ。そんな人間が冒険者を目指しているんだから、それこそ笑えちゃうでしょ?」
ここまで言うと、フォスはテーブルの上で手を組んでギュッと握りしめた。
「でも、私はどうしてもおばあちゃんの辿って着た軌跡をたどってみたいの。昔からおばあちゃんの話を聞いて、世界中を冒険することにあこがれていたから……」
フォスの目が潤んでいる。
「じゃあ、これから頑張ればいいんだよ! 僕は村の外のことは全くわからないから、これから覚えてくのと一緒だね」
「ヴィント……」
「僕は少しの風の魔法と剣を使える。魔物退治なら任せてよ!」
笑って見せると、フォスも笑ってくれた。
「ありがと。ヴィントって優しいのね」
「……そ、そうかな?」
あんまり女の子に優しく言われたことがないから、ドキッとしてしまう。
「うん! この街でヴィントに会えて本当に良かったわ!」
「…………」
緊張してしまって何も言えずにいると、アクスさんが僕たちの席に朝食を持ってきた。朝食を僕たちに配り終わると、僕の髪をわしゃわしゃとしてきた。
「朝から血気盛んなことはいいことだな。朝飯食ったら頑張ってこい」
「わ、わかりました」
アクスさんが安楽椅子に戻る中で僕は髪の毛を手櫛でとかす。
朝ごはんは、パンに野菜のたくさん入ったスープ、目玉焼きにヨーグルトといい匂いがする。
「美味しそうだなぁ」
「じゃあ、しっかりご飯を食べて試験を受けに行きましょ!」
「うん!」
二人で手を合わせてから、朝食を口にした。
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