第10話「怨念!発散!ガブルマン!!」(後編)
こちらは、第十話の後編となります。
前編をご覧になっていない方は、先に前話「第十話:前編」をご覧ください。
◇ ◇ ◇
「――はっ!?」
向井は跳ね起きた。
だが、そこは布団の上ではなかった。
視界に広がっていたのは――また、あの“悪夢”の中だった。
幾重にも連なる木の壁。
迷宮のように入り組んだ通路。
上も横も塞がれた、出口なき檻。
「また……ここかよ!!」
靄が漂い、木の床に響くのは、自分の足音だけ。
だが、いつもと同じはずの悪夢が――今夜は違っていた。
「くそっ、くそっ……!」
向井は迷路を全力で駆けた。
しかし、滑らかすぎる壁はよじ登れず、跳ねても天井には届かない。
どこまで走っても、通路は終わらなかった。
「ふざけんなよ!!」
苛立ちをぶつけるように、壁を殴る――
そのときだった。
『怨念! 発散! ガブルマ〜ン♪』
耳をつんざくような、不協和音の歌声が、上空から降ってきた。
――スパンッ!!
「がっ――あああああっ!!」
右脚に、鋭い衝撃が走る。
ふくらはぎを貫いた痛みに、膝から崩れ落ちた。
じわりと滲み出した血が、床を赤く染めていく。
「いってぇ……なに、これ……!」
肩を震わせる向井の頭上に、閃光が閃く。
そこに浮かんでいたのは――小型の円盤型飛行物体。
そのコクピットに立っていたのは、宇宙服のような異形の“存在”だった。
両手に握られているのは、炭酸入りペットボトル。
『怨念! 発散! ガブルマ〜ン♪』
奇怪なステップを踏みながら、謎のダンスを踊るその姿に、戦慄が走る。
「な、何なんだよ……! てめぇは!!」
向井が叫ぶと、異形は高らかに名乗った。
「我が名は、正義の使者――!」
「怨念! 発散! ガブルマン!!」
決めポーズを取り、ボトルをギュッと握る。
――ピュッ!!
水鉄砲のように噴射された炭酸が、一直線に向井を襲う!
「ぎっ……ああああああ!!」
尻に突き刺さる一撃。
「ワハハハハ! 尻に新しい穴が開いてしまったな!!」
哄笑を響かせるガブルマン。
その声は耳に張りつき、鼓膜を焼くようだった。
「て、てめぇ……っ!」
痛みに顔を歪め、向井は立ち上がろうとする。
だが――
「ぐうううぅ……!」
全身を貫くような激痛が、思考を止める。
「おや……泣くんだ? 君みたいなヤツが」
ガブルマンは挑発的に笑う。
「だ、黙りやがれえええ……!」
それが、向井の精一杯の反抗だった。
だが、ガブルマンは嗤いながら言った。
「一方的に痛めつけるのは、私の主義じゃない」
そして――ボトルを高く掲げた。
「三十秒だけ、逃げるチャンスを与えよう!」
「はぁ!? ふざけんなよ!!」
だが、無情にも――カウントダウンは始まる。
『怨念! 発散! ガブルマ〜ン♪』
「サーティー、トゥエンティナイン、トゥエンティエイト……」
「っち……!」
向井は足を引きずりながら、必死に迷路の奥へと走る。
『ガブルマ〜ン♪』
「テン、ナイン、エイト、セブン……!」
「スリー、ツー、ワン……終了!」
――ドスッ! ドスッ!!
「ぎっ……ああああああ!!」
太ももとアキレス腱を撃ち抜かれ、向井は床に転倒する。
「ぐっ……ぐうううぅっ……!」
身体が、動かない。
その上空から――ガブルマンの嘲笑が降ってきた。
「ダブルアタックチャ〜ンス!!」
両手を広げ、勝ち誇ったように踊るその姿は、まるで“狂気そのもの”だった。
「な、なんなんだよ……てめぇは……!」
涙と怒りをこらえながら、向井は呻く。
そのとき――ガブルマンの声色が、突然冷たくなった。
「おや? 君、自分の罪を本当にわかってないのかい?」
「知るかよ!! オレが何したってんだよ!!」
――ズバッ!!
今度は左肩。
「ぐああああっ!!」
痛みに悲鳴をあげる向井。
「うるさいなぁ。男なら少しは耐えて見せなよ」
そして――右手に、もう一発。
激痛とともに、血が飛び散る。
呼吸が浅くなり、視界がにじむ。
もう、立ち上がることすらできない。
だが、ガブルマンはなおも語る。
「――でもまあ、今日は余興にすぎない」
コクピットを上昇させながら、異形は告げる。
「三日後、君には“最高のゲーム”をプレゼントしよう」
その言葉とともに、彼は光の中へと消えていった。
「せいぜい怯えて眠れ……ワーハッハッハッハ!!」
爆音が迷路を揺らし、やがて――静寂だけが残された。
◇ ◇ ◇
「う、うわあああああ!!」
――ガバッ!!
向井は布団の中で飛び起きた。
額からは汗が噴き出し、呼吸は荒い。
夢――
けれど、それは“ただの夢”ではなかった。
「……はぁ、はぁっ……!」
あの痛み。
あの声。
あの歌。
感覚が、皮膚に、骨に、神経に、焼き付いている。
そして、確信した。
(――三日後、オレは……殺される!!)
耳にはまだ、“あの歌”が残っていた。
『怨念! 発散! ガブルマ〜ン♪』
◇ ◇ ◇
【次回予告】
向井に告げられた、“死”のタイムリミット――。
悪夢に刻まれたその宣告は、彼の心を蝕みはじめる。
怯え、追い詰められた末に、彼がすがろうとした最後の希望。
その名は――《大塚探偵事務所》。
その扉の先に待ち受けるのは、果たして救いか、それとも……。
次回、第十一話「ゲームスタート!」
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