※1〜2話を読んでのレビューです。
冒頭の描写は印象的だ。赤く染まる西の空、長く伸びるクレーンの影、混じり合う潮と干物の匂い。その風景を背景に、ただカウンターを磨くマリアの手が静かに動いている。この落ち着いた導入が、後に訪れる不穏な気配を際立たせている。
登場人物も鮮明だ。古傷で片目を閉じた老船乗りジョルの姿は、それだけで過去を物語る。異国の男の「……食べ物を」という一言は、場を支配するのに十分な弱さと緊張を含んでいる。説明ではなく、短い台詞や仕草が空気を変える。
文章は飾りを抑え、匂いや音で場を立ち上げることに重点が置かれている。遠くの波の音、硬い軍靴の響き、鼻をくすぐる煙草の香り。それらの要素が、ただの出来事を「港町の記憶」に変えていく。
特に効果的だったのは、マリアが気づく煙草の匂いの場面だ。異国の葉巻、それは過去の記憶と現在の出来事を一瞬で結びつける。説明を省き、匂いだけで心をざわつかせる手法は強い。
二話に進むと、地図に書かれた暗号、翻訳者ルカの存在、そして人混みに紛れる水夫。動きは次第に加速し、読者もまた港のざわめきに巻き込まれていく。
全体を通じ、静かな導入からわずかな違和感が積み重なり、物語が自然に「始まってしまう」感覚が魅力だった。