第7話 マインカード (2)
『
デビィドは更に詳しく話を聞くべく、ティエラに続きを促した。
「でもさ、ティエラ、探知系の魔術は効かないのか?
「それで調べる事も出来なくもないけど、擬態は完璧に近いから、かなり時間がかかるみたいよ。人間と魔人の種族間の差はあるけど、それを擬態してしまえるからこその
「だよな。俺らが襲われた時も、襲われるまで気付かなかったし」
「そうね。あたし達の場合も、襲われたから反撃したって感じだし、普段通りにされたら見破るのは難しいわ」
「そんな状況で、陛下はどうやって対処したんだ?」
「
「気の遠くなるような話だな、そりゃ!」
「でも、それしか手が無かったわ。『こいつは
「その状態じゃあ迂闊に処刑もできないし、冤罪が蔓延するだろうな」
「まあ、そこがペコニアの嫌らしいところなんだけど、陛下はそれを一つ一つ丁寧に潰して回り、結果として出来上がったのが『
「なるほど。国民全員の検査と、検査終了後のカードの配布。定期的に検査をすれば、カード配布後にすり替わってもバレるって話か!」
「特にヤバかったのは、制度施行当時の防衛次官と財務次官が
「マジかよ! お偉いさんもすり替わっていたのか!」
「やれ、『人手を使い過ぎる』だの、『予算の捻出が無理です』だの、とにかく反対、反対、大反対、だったみたいだけど、その反対していた重臣が犯人だったってオチ」
「まあ、情報漏洩に予算の無駄遣い、次官クラスになりすませば、本気で国の内部から浸食できるって話か」
「“なりすまし”ってそれだけ危険だって事よ。その後に制度は徐々に利便性を高めて行って、個人情報はもちろんの事、銀行口座の管理もできるようになって、重たい硬貨をジャラジャラ持ち歩く必要もなくなったわ」
「なるほど。自分自身の証明のために、『
「隣人が実は“なりすまし”だったと言うのを防ぐために、自分自身も含めて“本物”である事を証明しないといけない。監視が嫌だの、戸籍管理が面倒だのと言う奴なんて、結局は過去の犯罪歴のデータを消したいか、正体バレを嫌がる
「なるほどな~。高い税金にも、ちゃんとした理由があるって事か」
「平時ならともかく、戦時になりすましの
「国内の防諜体制の確立、金ってかかるもんなんだな~」
税金をごっそり持っていかれるのは癪ではあるが、理由を聞かされた後では納得せざるを得ない。
強盗を防ぐための費用だ。
日々の生活における利便性や安全性を考えると、妥当なのは違いなかった。
お偉いさんものほほんと豪奢な暮らしをしているようで、国全体の事をちゃんと考えているのだなと思うデビィドであった。
「まあ、それはそれとして、賞金、賞金!」
「んじゃま、山分けっと」
支払われた“8億マネイの情報”が入った使い捨て小切手カードに、それぞれが持つ『
銀行の預金残高をカードから確認すると、確かにそれぞれに2億マネイが振り込まれている事が確認された。
「よっしゃ! パァ~ッと今日は高級焼き肉店『JOJO炎』にでも繰り出すか!」
「勇者様、三日三晩、あれだけ飲み食いして、まだ足りませんか!?」
「腹が減れば飯を食う、当然の生理現象だ。食い溜めできない体は難儀だよな」
「冬眠前のクマじゃあるまいし」
「ガッハッハ! ほれ、行くぞ、行くぞ!」
王城を後にした勇者パーティーは、城下の繁華街へと向かった。
そして、それがある種の“お別れ会”になる事も察していた。
魔王討伐が目的であった聖戦士モロコスと聖女スオーラは、神殿、孤児院へと戻り、かつての生活に戻る。
大魔導士ティエラもまた、実家である大農園に戻るだけであるが、もちろん勇者同伴で帰るつもりだ。
なお、勇者デビィドは王都を離れる気はなかったので、ティエラにどう別れ話を切り出そうかと悩みながら歩き出す。
その歩みが別れ、あるいは、新たな旅立ちであると噛み締めながら、繁華街へと4人は消えていった。
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