第19話  ヒトの心、わたしの心 ⑧

ぜぇ、ぜぇ


ぜぇ、ぜぇ、


う、うぷっ…


プシュー!


ブリーフィングルームのドアが開く。


「え、エリィちゃん…」


そこには満身創痍のヒメカが…


ちょっと走っただけでこうなのよね、全く。


ヒメカの視線が飲みかけのわたしのドリンクにロックされる。

そして、そのままヒメカはわたしのドリンクを強奪し、ゴキュっ!ゴキュっ!と、あっという間に飲み干してしまう。


ちょっと

わたしのなんだけど…


「た、大変…命の輝き、が…」


また予言?

それにしても、命の輝きって?


「向こう…まだ、無事…」


ヒメカは艦の進行方向を指差す。


これって、助けられる命があるかもしれないってこと?

そうとなればっ!


「アリス!どういう事?」

わたしはアリスに聞く。


「おそれいります。ブリーフィングルームでは捜査、索敵能力を発揮できません。一足先にブリッジにて捜査、索敵を行います。マスターもお急ぎ下さい」


よし!

ブリッジに行こう!


「ドクター、わたし達はブリッジに行きます!先生!り…孫中佐、ブリッジに行きましょう!」


ドクターは、頷く。

先生は、意気揚々と立ち上がってブリッジに向かう。

麗玲さんは、面倒くさそうに立ち上がる。


今度こそ…


!!



ブリッジ。

少し、息を切らせながらやってくるわたし。

同時に先生はささっと操舵に向かい、麗玲さんは、やっぱり面倒くさそうに壁に寄りかかる。


「どうなってるの?」


わたしはアリスに状況を確認する。


「はい。ヒメカの言う通り、無機物の反応が確認できています。しかし、そこに蟲が集まりつつあります。ワタシの計算では、イルダーナの最大船速を持ってしても間に合いません。残念ですが」


無機物の反応?

そっか、中に人間がいたとしても観測できないのか。

アリスの冷静すぎる状況分析。


「ダメ!絶対に、絶対に助けるの!先生、最大船速で向かってください!」


「はい〜!わかりましたぁ〜」

スピードを上げだす先生。


それから…

それから……


「アンスウェラーとオハン全機を先行させて!」


イルダーナの無人艦載機、アンスウェラーとオハン全機を向かわせる!これしかない!

この2つのスピードなら、問題ないはず!


「畏まりました。アンスウェラー、オハン、全機出撃します」


よしよし!

この2つならイルダーナが到着するまで護りきれるはず!


「おい」


唐突に麗玲さん。


「オハンとは何だ?アタシは知らないぞ」


ウソでしょ?

データ転送してあったと思うけど…


「おかしいですね?リッカから中佐の端末にデータを送るように言っておいたのですが」


アリスが確認する。

なに?と、麗玲さんは自分の端末を確認。


。。

。。。


チッ!


舌打ち。


なんで?

メール見てないんでしょ?

こっちが舌打ちしたいけど?


「立花のヤツ…これじゃあどう見ても迷惑メールだろうがっ!アリス、アタシの落ち度だ説明してくれ」


一体、どんなメール内容だったのかな?

多分…

でも、自分のミスは認めるのね、この人。


「畏まりました。オハンはアンスウェラー同様、全6機からなるこの艦の無人艦載機です。アンスウェラーが攻撃に特化しているのに対し、オハンは防御に特化しています。基本的には3機ずつでの運用を想定しています。機体の素材は…」


あはは…

実のところわたしもリッカさんからもらったデータの内容がチンプンカンプンだったのは、ナイショ。

だって…

リッカ語で書いてあるんだもん…

なんていうか、説明の端々でガキョーンとかビッキーンとさ擬音がたくさん出てきて…

うん!よくわからん!

ってなっちゃった…


「あ〜、素材とかはどうでも良い、どうせ聞いてもわからん。何が出来るのかを簡潔に教えろ」


確かに…

こんな金属がどうで、強度がこれくらいで、エネルギーは何々でとか言われても分からないわよね。


「はい。オハンは3機以上の運用が基本となります。オハンはその翼からエネルギーフィールドを発生させ、それを線で結び、面を作ることで強力な防御壁を構成出来ます」


なるほど!

説明に書いてあったのはそういう事だったのね?

2機だと、線にしかならないから意味がないのかな?


「6機を用いてエネルギーフィールドの形状を三角柱若しくは八面体に結ぶ事により中の存在に対し外からの攻撃を防ぐバリアを形成出来ます。なお、5機から三角錐型にフィールドを形成出来ますが、エネルギー出力がアンバランスになり、効果が下がるので推奨しません」


なるほど、なるほど。

改めて聞くとイメージ付きやすいわね。


「ほう。どれくらいの防御力を誇る?」


的確な質問。


「はい。カタログスペックでは、イルダーナのカノン砲を問題なく防ぐ事が可能な程度のバリアを張れます」


すごい!

それじゃ、バリアフィールド展開させて中からカノン砲撃ってたら無敵じゃない!


「ですが、デメリットとして、バリアフィールドは両面有効です。内側から外への攻撃も完全に防いでしまいますので、ご注意を」


見透かされたような注意点。

デスヨネー。


「分かった。色々と使い道がありそうだな」


オハンの説明を聞き終わったところで…


「よし!では、その無機物?人が乗ってるっぽいから到着次第、オハンで囲んで護ってあげて!」


わたしは指示を出す。

そして、12機の閃光がイルダーナから翔んでいった。



宇宙に12の閃光が疾走る。

漆黒のボディの戦闘機アンスウェラー。

純白のボディの戦闘機オハン。

完璧な編隊の編隊飛行。


戦闘機が前方の映像を送ってくる。

前方に船が見えてくる。

大きさは、そう、せいぜい20人から30人くらいが乗れそうな大きさかな?

でも、見たこともない形状。

もしかして、地球の技術によるものじゃないのかな?

リッカさんに…は、後で言おう。

どうせ、といったら失礼だけど、保護するし、リッカさんに直してもらうし。


羽虫や蜂が襲っている。

大型蜻蛉はまだいない。

船舶は、ところどころからスパークしている。

反撃は、していない。

武装ないのかな?


なら、尚更!

オハンで、至急保護!

6期編成が3機づつに分かれる。

そして、上下にその船舶を挟むよう布陣。

三角柱型のエネルギーフィールドを展開。

蟲の体当たりを弾くバリア。

すごっ!

蜂の体当たりをはじいたわ!


飛んでくる液体。

来た!

蜻蛉の溶解液だわ!

回りの蟲ドロドロに溶かすけど、バリアは無事!

すごい!

イルダーナのカノン砲すら防ぐって本当かも!


蜻蛉が飛来する。

でも、蜻蛉対策は完璧!


ここ数日の度重なる戦闘で、アンスウェラーがツーマンセルで簡単に対処する様になったわ。

1機が斬り裂いて、切り裂いたところに蟲が共食い再生しようとしたところでもう1機がエネルギー砲で撃破!

アンスウェラーのAIがきっちり学習して倒せるレベルのエネルギー砲の出力に調整してくれているわ。


続けて2、3匹出てきたけど、問題なく対処。

羽虫や蜂は懲りずにバリアフィールドに突撃してきているわ。


そんな、戦場にイルダーナ到着。


「対空砲火と副砲ビームで回りの蟲をやっつけて!」


イルダーナのビームの閃光が疾走り、蟲を焼き払う。

「と、とりあえず。どうしよう」

来たはいいけど、どうしよう…とりあえず、蟲をやっつけないと!


「マスター!前方、新種来ます!」


えっ?

新種?



し、新種って、いったいどんな蟲なのよぉぉぉ…

気持ち悪いのは、カンベンしてよね…


わたし達はアリスの言う新種に強い警戒態勢を取ったのでした。


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