第2話 鎖の値札 借金地獄

第二章 鎖と値札(修正版・二枚舌と株取引)


 社長に就任して最初に直面したのは、株をめぐる巨額の交渉だった。


 初代はこう告げた。

 ――「株を5,000万で買え。その代わりにお前を社長に据える」


 しかし後に知ることになる。

 その株はすでに②代目社長へ、同じく5,000万で売却済みだったのだ。

 つまり初代は「株を持っている」と語りながら、裏ではすでに手放していた。

 二枚舌の言葉に、私は翻弄された。


 一方、株を実際に持っていた②代目社長はこう言った。

 ――「自分はもう株はいらない。だから5,000万で買い取れ」


 重くのしかかる数字。

 交渉を重ね、ようやくまとまったのは3,000万だった。

 大きな負担ではあったが、「これで本当の意味で会社を背負える」と信じた。


 だが、その安心は長くは続かなかった。

 株の所有構造は歪み、初代と②代目の矛盾が残されたまま。

 椅子に座った私には、荒れ果てた経営と散り散りの人心だけが待っていた。


 眠れぬ夜、未処理の伝票は机の上で山をなし、胸を締めつけた。

 さらに外に広がる「裁判になるらしい」という噂が、社内の空気を冷やしていった。

 休憩室の笑いは消え、電話の声には力がなく、社員たちの心には「この会社は続くのか」という影が差した。


 やがてその不安は社外にも及び、銀行は言葉を選び、取引先は支払い条件に慎重になった。

 「裁判沙汰の会社」という印象は、まだ始まってもいないのに確実に広まっていった。


 押し潰されそうな中で、私の脳裏に浮かんだのは、かつて現場を支えてくれた二人の顔だった。

 忙しい中でも人をまとめ、数字を即座に掌握できる――混乱を立て直すには、どうしても必要な存在だった。


 受話器を握る手は震えていた。

 社長としての威厳も体面も、今は意味を持たない。

 ただ一人間として、頼むしかなかった。


 「頼む……もう一度、力を貸してくれないか」


 その声には懇願と誠意、そして未来をつなぐ最後の希望が込められていた。


 ――第三章、救いの手。

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