第16話 ホノカのお仕事
「ホノカちゃん、覚悟はいい?」
「はい。もちろんです」
ホノカと呼ばれた赤髪の少女はこくりとうなずいた。
魔法省の奥の奥。入り組んだ通路を歩くのはホノカと、その先輩であるコルナだ。
「それじゃあようこそ、ウチらの城へ。もう後戻りはできないよ」
ごくりと唾を飲み込むホノカ。この先は魔窟であり、そこに入るには勇気が必要だったから。一見するとシンプルなオフィスだ。しかし狭い。長机に椅子が並び、その端にはソファが置いてある。
「遅いぞコルナ! いつまでボク様を待たせるつもりだ!」
「あれ、ルーちゃんいたの?」
その部屋には先客がいた。色素の薄い銀髪はツインテールに、あちこちに青のメッシュが入っている。見た目は小学生くらいだろうか。ホノカよりも幾分か小柄な彼女は、態度はデカかった。
「む、コルナ! ここには部外者を入れるなとあれほど……」
「この子は新メンバーだよ。ウチらの仲間ね」
「あ、えっと……よろしくお願いします?」
とりあえず頭を下げてみるホノカ。しかし反応は芳しくないようだ。ルーちゃんと呼ばれた魔法少女はホノカに目を合わせて睨み付ける。
「新・入・り~? こんな弱そうな魔法少女がボク様の――」
「ルーちゃんもうおやつ食べた?」
「食べてない!!」
「今取ってくるからね~」
そう言って勢いよくオフィスを飛び出したコルナ。途端に二人の間に気まずい空気が流れ始める。仕切り直しだ、と言わんばかりに腕を組んだ少女。
「ふん。そもそもお前、ここがどんな場所か分かってるのか?」
「どこって、コルナ先輩のチームじゃないんですか」
「お前……ホントに知らないのか……?」
愕然と目を見開く少女に対して、ホノカは内心で首をかしげる。ここに来るまでに詳しい説明は受けていない。ただ、研修のためにコルナが指導するとだけ。
「はぁ……。いいか教えてやる。魔法少女は、全員が魔獣や異界と戦う訳じゃない」
「非戦闘系の魔法少女のことですか?」
「それもあるが、相手が違う。ボク様の魔法は毒物に関連しているが、異界を相手取るには心許ない。だから相手にするのは人の形をした化け物だ」
まだ幼さが残る声音だが、内容は物騒だ。
「ここでは地形を変えるド派手な魔法は必要ない。対人戦のために訓練された魔法少女が集まる場所だ」
「対人って……
「……ああ、分かりやすく言うと、魔法少女を始末するための
「え、ええええええええ!?!!?」
大げさに後ずさるホノカを冷ややかな目で見つめる少女。
「我々は強大な力と、それに見合わない未熟な精神を持っている。中にはチョーシに乗るバカもいるし、謀反を起こしたアホもいる。
「それ、は……」
「答えは決まってる。ボク様がチョーシに乗ってる魔法少女を全員ぶち殺す!!」
ある噂がある。魔法少女同士の私闘や、魔法の私的利用には重いペナルティが科せられる、と。中には強引な方法で更生させるらしいが、果たして誰が魔法少女という超常的な存在を相手に強引な手段を取ることができるのだろうか。
「もしかして、噂の魔法少女狩りって……」
「都市伝説でも陰謀論でもないぞ。身内の粛正を行うための
魔法少女に対するカウンターの一つ。対人特化の魔法少女達が集められた精鋭部隊。ネットの隅でまことしやかに囁かれる存在は実在する。
「剣呑な表現になったが、主な仕事はケンカの仲裁や、チョーシに乗ってる魔法少女を更生させること。後は外国との小競り合いでも活躍するぞ!」
「そ、そういうことですか」
分かりやすく安堵の表情を浮かべるホノカ。そんなホノカを少女は哀れんだ表情で見つめている。
「おまたせ~! シュークリーム買ってきたよ~」
元気いっぱいに戻ってきたコルナが、両手に紙袋をぶんぶん振って入ってきた。
「さぁルーちゃん! おやつの時間だよ!」
「……む? シュークリームだと?」
「ほらほら、限定のカスタードと生クリームのダブル! 早い者勝ちだからね!」
一転して目を輝かせる少女。
ついさっきまでの威圧感など消え失せ、机に駆け寄って袋を覗き込む。
「二人とも仲良くできた? ルーちゃんも意地悪してないよね」
「してないぞ。ただ、甘くする理由もないがな」
ホノカには聞こえないような小声で、二人は続ける。
「なぜあんなお花畑を連れてきたのか理解に苦しむ。せめて殺しがあると事前に説明しておけば……。あいつ、どう見ても向いてないぞ」
「まあまあ、まだ詳しい話は伏せといてね。そのうちサックリと
「だまし討ちのような形で手を汚させるのか!? 流石にサイテーだぞ!?」
「何事も経験でしょ。文句言う人はおやつ没収だから」
「分かった分かった! 異論はないぞ!」
◇
どうやらあり得ないスピードで森が成長しているせいで、四方を森に囲まれてしまった。帰り道が分からん。
▼
道は歩くためにあるのではない。迷わせるために伸びている。失われた色は生を抱いて眠るだろう。
道に迷ったときはこれにかぎるな。とりあえずこの声に従っておけば間違いない。
「セッカ、あの方向。開けて」
「分かりました」
氷の閃光が迸り、視界を遮っていた樹木が一瞬で凍りつく。砕け散る枝葉の合間から、確かに細い風の通り道が覗いていた。
「こ、これも勘ですかぁ」
「そうだよ」
俺はこのポエムのことを全面的に信頼してる。
少し歩けば、向こうから淡い光が現れた。少しずつ近づいてくるソレに警戒していると、徐々にシルエットが露わになる。
「探しましたキノ。皆さんご無事なようで」
アンティークなランタンを携えて、ローブを着た魔女が現れた。
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