第17話 夜の森



 この世界はわりと終わっている。それが魔法少女になった俺が下した結論だった。憧れていたキラキラした生活や、万能な魔法のステッキはそこにはない。あったのは血なまぐさい現実と、それに慣れてしまった魔法少女達。

 ここはダークなタイプの魔法少女の世界なのだ。



「間に合って良かったキノ。この森は日中と夜では危険度が段違いキノ」

「助かりました。私達も夜間での探索は想定していなかったので」



 夏は日が長いとはいえ、夕方にもなると森は視界が悪くなる。昼間ですら鬱蒼としてるからな。今の森はより一層不気味だ。

 キノリが迎えに来たのは好判断だった。セッカごり押しで森を抜けることもできたが、派手に動いて消耗するのも本意じゃない。



「よ、よかったぁ。無事に帰れるんですね!」

「いや、今晩はここで一泊するキノ」

「え、えええ!?!」



 マジで???



「理由は二つ。無理に動くよりもここにとどまった方が安全キノ。そのくらい夜は危険キノ。それに、この光があれば植物たちは寄ってこないキノ」



 キノリがランタンを掲げると、淡い橙の光が周囲を優しく染めた。まるで小さな結界のように、赤紫の幹や蠢く蔦が一定の距離を保ったまま動きを止める。なんだその便利アイテム。



「一点物で替えがきかないから今回はあえて使用しなかったキノ。本番は使うつもりだったキノ」



 俺達の疑問を感じ取ったのか、キノリは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。



「いえ、妥当な判断です。……ここにとどまる判断も含めて、了解しました」

「ヒ、ヒマリは不安ですよぅ」



 ▼

 夜は目を閉じた獣のよう。静けさは眠りではなく、喉を鳴らす前の沈黙。

 踏み出した一歩を、闇が数え忘れることはない。



 なんかポエムが不穏なので俺も大人しく従っておくことにする。

 俺も同意を示すようにこくりとうなずいた。



「そんなぁ、カステルさんまで。ここにいたら、晩ご飯はどうなっちゃうんですかぁ」

「心配するところそこなんですね」



 ヒマリって謎に食いしん坊キャラだよな。この前に行った焼肉でも、一人だけで俺とホノカの倍は食べてたし。

 あと安心しろ、どうせサラダしか出ないぞ。



「ちょっとしたスープならあるキノ」

「あ、これもちゃんと野菜が主体なんですねぇ」



 コンソメが香るのは野菜が詰まったスープだ。あえて形容するなら肉抜きポトフ。



「……62点(ボソッ)」



 スープをぐびりと飲んだヒマリが、キノリには聞こえないような小声で一言。こいつわりといい性格してるよな。



 ▼

 夜は沈黙の皮をかぶった狩人。灯火は牙を隠す餌――飲んではダメですアキラさん。毒入ってますよ。



 は、なんでお前――



 ▼

 アキラさんがあんまりにもニブチンだったので来て差し上げました。



 いや違う、さっき毒って。



 ▼

 目の前のキノキノ女は異客アナテマです。さっさとブチ殺さないと、ひつじ女が危険ですよ。









 ◇









 一瞬の出来事だった。食事を挟む小休止のはずが、カステルが短く振り抜いた斧が全てを変える。一瞬の判断。ほとんど反射的に振るわれた斧は、キノリの鼻先を掠めた。



「カステル?!」

「ごめん、今気づいた。そいつは異客アナテマ!」



 バックステップで斧を躱したキノリも、何が起こっているのか分からないといった様子だ。



「落ち着いて、!」

「……!!」



 それは、カステルとセッカが組んでいたときの作戦コード。異客アナテマを相手にするために暗号化されたソレの意味は非常にシンプル。

 すなわち、一刻も早く異客アナテマを退けろ、と。



吹き飛ばせフィンブルドッ!!」



 冷気が爆発する。波打つように広がる厚氷は地面を覆い、キノリの足元へと迫る。



「……キノ」

「な、なんですか突然んん!?!」



 セッカは止まらない。混乱するヒマリをよそに、殺人的な冷気を振りまいていく。



「ヒマリ、無事? 体に異変は」

「い、異変ってぇ……なんともないです……キノ」



 ▼

 あぁ、もう手遅れ。まんまと胞子に寄生されてますね



「ッA級上位と正面から戦うのは想定外キノ」

「えっと、キノリさん。ヒマリはどうすればいいですかぁ……キノ」

「!?」



 おいおいおいおい。ヤバいんじゃないかこれ……!



「……ッヒマリが洗脳られた」

「つ、貫けぇグラジオ!!」

爆ぜろフィズア!」



 俺達に向けて放たれた土の槍をセッカが相殺する。ガチ洗脳かよ!



「これで二対二。ヒマリさんは人質ということで……よろしいキノ?」



 変わらぬ表情で。ローブの魔女は小首をかしげた。



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