第34話 決意と葛藤
文化祭は、大成功だった。
D組のお化け屋敷は、多くの3年生や先生たちから「クオリティが高い!」と絶賛された。
打ち上げ当日、俺たちは焼肉店に集まり、楽しい時間を過ごしていた。
「和真!お化け役、めちゃくちゃ怖かったよ!声、めちゃくちゃ震えてたけど」
春原が、冗談交じりに笑いかける。
「うるさいよ……」
俺は、少し照れくさくなった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、打ち上げがお開きになり、クラスメイトたちが解散していく。
俺も帰ろうとした時、佑真が呼び止めた。
「佐伯、この後俺たち3人で二次会に行こうと思うんだけど……来ない?」
断る理由もなく、「行く!」と即答した。
向かったのはファミレス店だったが、店に入るのを断られてしまった。
それもそのはず、現在時刻は20時37分。
未成年だけで出歩いていい時間ではないからだ。
「どうする?もう解散にするか?」
昭彦が尋ねる。
「……そうだね。また明日、集まるのはどう?」
佑真の提案に、蓮が少し困った顔をする。
「あ!明日はちょっと……予定があるから……」
「……デートか?デートなのか、蓮!」
昭彦がニヤニヤしながら尋ねる。
「ま、まぁ……ね」
蓮は少し恥ずかしそうだ。
「マジか!?いつの間に!」
昭彦の驚きの声に、佑真も興味津々だ。
「気になるけど……一旦解散しようか」
俺も驚いた。
もし本当にデートなら、女子と仲良くなる方法やエスコートのやり方などを教えてほしい……。
そう思って、勇気を出した。
「もしよかったら、おれの家に来ない?」
俺の提案で、近くのコンビニ……俺のバイト先だが……に寄ってジュースやおやつを買い、家に向かった。
家に着くと、3人は「おじゃましまーす」と楽しそうに入ってきた。
「まぁ、適当に座って、ゆっくりして」
俺がそう声をかけると、昭彦が目を輝かせた。
「一人暮らしなんて……羨ましいぜ!これなら、女子を連れ混み放題じゃねぇーか」
「……昭彦はすぐそういうことを言う。だから、モテないんだよ……」
蓮の正論に、昭彦は「うるせぇーよ!」と反論する。
「ごめんな。うるさくて……周りから苦情とかこない?」
佑真が心配そうに聞く。
「大丈夫だよ。防音だから……」
俺の返答に、昭彦はすぐに本題に戻った。
「……で?蓮……明日はどこで誰とデートするんだ?」
「……秘密」
蓮の返答に、昭彦が食い下がる。
「おい!隠さなくてもいいだろ!?俺ら友達だろ!」
「落ち着けよ昭彦……誰にでも隠したいことの1つや2つあるだろ?」
佑真がなだめる。
俺は紙コップを取りにキッチンへと向かった。
「くっ!男が集まったら……するだろ?恋バナ!」
昭彦の言葉に、蓮と佑真が顔を見合わせる。
「……しないと思うよ」
「うん……しないね」
2人の即答に、昭彦は納得がいかないようだ。
「いやいや、俺ら華の高校生だぜ?するだろーがよ!なぁ?佐伯、お前もそう思うだろ?」
「……しないんじゃないかな?するのは女子会……とか?」
俺の意見に、昭彦は肩を落とす。
「佐伯まで……俺の味方はここにはいないのか!」
「恋バナ……高校生……なるほど。話のネタがあるのはいいね。するか……恋バナ」
佑真が面白そうに言うと、蓮が呆れたように問いかける。
「……マジでするの?男同士の恋バナのどこに需要があるの?」
「どこって、それはもちろん……どこだ?」
昭彦は首を傾げた。
「ひとまず……乾杯しよう」
佑真の提案で、ジュースを飲むことにした。
「そうだね。佐伯、何飲む?」
蓮が聞いてくれる。
「オレンジジュースで……」
蓮は紙コップにオレンジジュースを注いでくれた。
「ありがとう……」
「俺はコーラで」
「俺もコーラで」
「じゃあ僕は、ソーダで」
それぞれがジュースの入った紙コップを手に取る。
「それじゃぁ、とりあえず!文化祭、おつかれー!!」
「おつかれー!!」
「大人がよくやる飲み会って、こんな感じなんだなぁー」
佑真が楽しそうに言う。
「そうだねー」
蓮も同意する。
その時、昭彦が真剣な表情になった。
「さて、本題に入ろう……」
「この中で、今、好きな人がいる人!!」
……誰も手を挙げなかった。
「……おい!誰か1人は、手を挙げろよ!話が進まないだろ!?」
「……はい、恋バナ終了……」
蓮が淡々と言い放つ。
「おい!勝手に終わらせるなよ!」
「……恋バナって難しいなぁ」
佑真が呟く。
「……それじゃあ、気になる人がいる人は、いる?」
俺が勇気を出してそう言うと、3人は驚いた顔をした。
「まさか……佐伯が言うなんて……」
「びっくりしたぁー」
「そうか!好きな子ではなく、気になる子なら言いやすい……ってことか……」
佑真が俺の意図を察する。
「確かに……気になる子なら、俺は委員長の石原さん……かな」
昭彦が口火を切る。
「ちなみに理由は?」
蓮の問いに、昭彦はたじろぐ。
「……理由まで言わないといけないのかよ!」
「そりゃぁー、恋バナだからな」
佑真がにやりと笑う。
「俺も気になるなー」
俺も同意すると、昭彦は観念したようだ。
「くっ!それじゃあ、お前らも気になる子と理由もちゃんと言えよ!!」
昭彦は話し始めた。
「委員長って、すっげー真面目でキッチリしてるじゃん?でも、文化祭の準備中、お化け屋敷の飾り付けで、本気で楽しそうに笑ってたんだよ。あの真剣な顔から、急に無邪気な笑顔になったギャップにやられたっていうか……。いつもは俺らがふざけてると怒るのに、あの時だけは『ちょっと!もっと面白くしなきゃダメだよ!』って、本人が一番楽しんでてさ。ああいう意外な一面を見ると、なんか放っておけなくなるんだよな」
昭彦が割と長めに答えると、俺たち3人はポカンとしていた。
「なんだよ!なんか言えよ!!」
「……なるほど」
「……ガチだねー」
「……あぁ、そういうこと」
「なんか言えとは言ったけど……!!」
昭彦の戸惑う声に、蓮が笑いをこらえる。
「文化祭でねぇー。完全に惚れたんだ」
「佐伯が質問したのは気になる子のことだよ。それだと、好きな子になってしまうよ」
佑真が指摘する。
「……別に人を好きになるのを恥ずかしがらなくてもいいと思うよ」
俺がそう言うと、昭彦は顔を赤くして否定する。
「惚れてねーし、好きでもねーよ!!気になるだけだよ!!」
「……あそこまで、具体的に言われると……説得力ないよ」
蓮の冷静なツッコミに、昭彦は降参したようだ。
「もう、俺のことはいいだろ!!次はお前らが答える番だぞ!」
昭彦の言葉で、次は佑真の番になった。
「……俺は、由香里……だな」
「へぇー、意外だね……」
蓮が驚き、昭彦は「まぁ、そうなんじゃないかなとは、思っていたが……」と納得顔だ。
「そうだったんだな」
俺は驚きを隠せない。
「ちなみにいつからなんだ?」
昭彦が尋ねる。
「……あれは、そうまだ小学生の時……」
「結構前だね」
蓮が言う。
「……確か幼なじみ……だったっけ」
俺の言葉に、昭彦が「2人とも佑真の話を聞こうぜ!」と制する。
「……生まれて初めて、女子に下の名前で呼ばれて……嬉しかったんだ。そして、小学生3年生の時、生まれて初めて年賀状のハガキをくれたんだ……」
佑真の言葉に、昭彦は続きを促す。
「……それで、それで?」
「以上だよ……」
佑真の意外な理由に、蓮が驚く。
「えぇー。優しくされたから……とかじゃないんだ」
「そういう感じのもあるんだなぁ」
俺は感心した。
「佐伯は……うん、聞かなくても分かるな!」
昭彦が俺の番を飛ばそうとするが、蓮が待ったをかける。
「確かにそうだけど、本人の口から聞きたいなぁー」
3人の視線が俺に向けられた。
さすがに自分だけ言わないのは良くないと思い、答えた。
「春原さん……だね」
「やっぱりなぁー。そうだと思ってたよ!」
昭彦は得意げだ。
「それで?何か進展はあったの?」
蓮の問いに、俺は首を振る。
「……全然ないよ。まぁ、1つ言うなら、名前で呼ばれるようになったこと……かな」
「まぁー、春原は今まで恋愛をした事がないから、物凄く鈍感だぞ」
佑真の言葉に、俺は「それは、何となく気づいてるよ……」と答えた。
「それで1番の本題に入ろうぜ!ラストは蓮の番だ」
昭彦が締めくくりの言葉を言い、蓮が口を開いた。
「……明日、白山 佳奈さんとデートに行くんだ」
「マジかよ!?羨まし過ぎるぞ!!」
昭彦は叫び、佑真は驚いた顔をする。
「蓮と白山さんって接点あったっけ?」
「文化祭で、僕が教室の飾り付けをしてた時に、白山さんが手伝ってくれたんだ。そして文化祭準備の帰り道に『お疲れ様』って声をかけたら、お互い文化祭の話で盛り上がっちゃって。その流れで『今度ゆっくり話さない?』って誘ったらOKしてくれたんだ」
蓮の意外な経緯に、佑真は「そんな事があったなんて……初耳だ」と驚いている。
「……これでもし、4人とも付き合えたら……フォーデートだな!」
昭彦が夢のようなことを言い出す。
「フォーデートって、何?」
俺が尋ねると、昭彦が解説してくれた。
「簡単に言えば、4人のカップルで同時にデートをすることだ!」
「それなら、デートじゃなくて旅行でいいだろ?」
佑真が冷静にツッコミを入れる。
「2人とも気が早すぎ」
蓮の言葉に、俺は楽しそうに想像した。
「みんなで、旅行……か。いいかもしれないなー」
結局、みんなは俺の家に泊まることになり、話は夜中の3時くらいまで続いた。
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