第14話 日曜日の体育館

そして翌日、俺は朝早くに目を覚ました。


土曜日の午前5時23分。


まだ夜の帳が色濃く残る時間帯だ。


早起きは得意だ。いや、正確には得意というよりも、目が覚めてしまう。


原因は恐らく、中学時代のトラウマだろうか。


理由はどうあれ、「お年寄りか!」と自分自身でツッコミを入れたくなる。


しかも、一度目が覚めたら二度寝はできない体質だ。


目が覚めて何をするかというと、学校がある日なら朝食と弁当を作る。


しかし休みの日は特にすることがなく、スマホを触る時間が多くなる。


電源を入れると、昨夜の23時頃、佐藤からLINEが来ていた。


内容は、日曜日……つまり、明日、バスケの練習に参加しないかというお誘いだった。


青春を求める俺にとって、こんな嬉しい誘いはない。


もちろん、二つ返事で参加することを決めた。


まあ、明日のことなので、今日何をするんだ?という話になるが……特に予定はない。


強いて言えば、明日着ていく服を選んだくらいか。


服といっても、パーカーしか持っていないのだが。


そんなこんなで、土曜日は何事もなく一日が終わった。


そして、翌日の日曜日。


午前9時45分。


俺は花隈市民体育館の入口に向かうと、すでに半数の人が集まっている。


春原が俺を見つけると、明るい笑顔で駆け寄ってきた。


「佐伯くん!おはよう!!」


俺は、おはようと挨拶を返す。

入れ替わるように、佐藤が体育館の中から出てきた。


「おお!佐伯くん!!おはよう!」


「おはよう」


佐藤は、「受付済ませたから、中に入ろうか」と言い、皆で体育館の中へ入っていく。


体育館に入ると、独特のゴムの匂いと床のワックスの匂いが混じり合い、俺は少し息苦しさを感じた。


すでに何人かがボールを手に、楽しそうにドリブルをしている。


佐藤が皆を中央に集めた。


「よし、じゃあ軽くストレッチしてから、始めようか!」


その掛け声で、一斉に体がほぐされ始めた。俺は壁に背中を預け、ふくらはぎを伸ばす。


横を見ると、春原が隣で太ももを伸ばしていた。


「体が硬くてさー!」と笑う声が、体育館に響く。


「佐伯くん、バスケ得意?」


春原が明るい声で聞いてきた。


「いや、全然。中学のときも、体育の授業で苦労してて……」


正直にそう答えた。


恥ずかしかったが、変に虚勢を張っても仕方ない。


「そっか!私はね、全然!ルールも自信ないんだ。だから一緒に頑張ろうね!」


春原は満面の笑みを浮かべる。


その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


ストレッチを終えると、皆がボールを手に取った。


俺も恐る恐る一つ手に取る。


ずっしりとした重さが、不安をさらに煽る。


ドリブルを試みるが、思い通りにいかない。


ボフッ、ボフッと重い音がして、ボールは不規則に弾む。


遠くから佐藤が声をかけてきた。


「佐伯くん!こっちでやろうぜ!」


楽しそうにボールを扱う皆の姿に、俺は足がすくむ。


「いや、俺、ちょっと……」


そう言いかけたその時、春原が隣に来て、俺の持っていたボールを手に取った。


「佐伯くん、見てて!」


春原はたどたどしいながらも、必死にドリブルを始めた。


ボールが手から離れそうになるたびに、懸命に追いかける。


その姿が、なんだか滑稽で、可愛らしかった。


「ほらね!私より上手だよ、佐伯くん!」


その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


「……行くか」


俺は小さくそう呟き、春原と一緒に皆のいる場所へと歩き出した。

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