第4話 悪意のない噂
「な、なによこれ……」
月和は一人トイレに籠ってSNSでエゴサをしていた。
SNSにはすでに色々な憶測が飛び交っていた。
そこにはいくつもの憶測、推測、俗に言う〇〇説が多く書き込まれていた。
そこには大量のイイネにコメント、その説を推すようなコメントがズラズラと一人歩きならぬ群衆歩きしていた。
それを見て月和はその現実に恐怖していた。
今まで批判や評判されることは多かったけどこんな事は・・・しかもこんなに沢山の人が・・・。
今まで月和がSNSで誹謗中傷されることは少なからずあったが憶測が飛んだり、ここまで
それに加え今までは多くて数百人程度だったのに対して今回の件は数十万人規模。
あまりの人の多さに月和は一人震えるしかなかった。
「・・・・・・!?」
足音と人の話し声が聞こえてきた。
それに月和は存在感を無くそうと息を潜める。
「ねぇアレ見た?」
「あれって売春がバレそうになったから解雇されたってやつ?」
「じゃなくて密かに付き合ってた彼氏にフラれて脱退ってやつ。ってかそんな話もあんの!?」
「・・・・・・!?」
月和はさらに身体を震わせる。今来た二人が話しているのはどれもSNSに流れる月和の記事だった。
「実際どうなんだろうね」
「でもネットの記事だと写真もあるし」
「でもさ、最近オールドメディアとか偏向報道しかしないしどうなんだろう?」
「まぁ確かに。でもこれまでうちのアイドル部から脱退した人がいなかったじゃん。やっぱりそれなりの理由があるんじゃない?」
「あんな下手な踊りとか歌でもスタイルは良かったし。顔は髪で見えないけどほんとはめっちゃ可愛くて優遇してもらってたり」
「私そういう感じのアイドルはちょっとヤダかなーー?」
「私も」
二人は化粧を整えるとトイレから出て行った。
「はぁはぁはぁはぁ・・・」
誰もいなくなり息を整えていると一つの通知が届いた。それはよく活用してるSNSからだった。
「・・・!?」
その投稿を見てみるとなぜか自分の家が特定されていた。
それだけじゃない。小学校も中学校も特定されていた。
「ぶ、ぶぇーー!!」
月和は自分の座っていたトレイに思わず戻してしまった。
周りからの疑惑、視線、まるで犯罪者になったかのような被害妄想。何もしていないにも関わらずただの一つの出来事でここまで注目を浴びる。しかも悪い意味で。身体の筋肉が緊張で圧迫し胃酸が食道を通り外に吐き出される。
脱退してから一日中そうだった。
知らないとか違うと言っても疑惑は残り奇怪な目で見られる。居心地の悪さからすぐに帰ろうとすればより悪い方向に勘繰られる。そしてそれが更に悪意のない悪意のあるような説を確立したてる連鎖。
それから二時間、月和はひたすらトイレに篭り続けた。トイレにはただ異臭が残るだけだった。
***
部活や同好会の者以外は既に下校した時間帯。
例え所属していたとしても大半が下校済みの最終下校時間数十分前、月和は誰もいないか確認しながら盗人のようにヒソヒソと隠れながらどうにか昇降口に行かないか動いていた。
だが行くとこ行くとこ誰かがおり行けるに行けなかった。
だがそれが運命というものなのか、それとも宿命なのか、少なくともそれは月和の人生を左右する選択を強制した。
月和が隠れ周っているとピクニックスペースへと辿り着いた。
そしてそこには一人夕陽を眺める凰介だけがいた。
「はぁはぁはぁ、うっ!」
月和は口を手を塞いでそっとベンチに座る。
なぜ自分がベンチに座ったのかは分からない。ただなんとなく座るべきだと感じた。
「随分と………いや、思っていた以上に来てるみたいだな」
凰介は振り返ることなく心配そうに言った。
「世の中クソだろ?たかがなんでもない理由で脱退しただけでここまで憶測が飛び交う。そこに悪意がないのがより性質が悪い」
「悪意が……ない?」
その言葉に月和は引っかかった。
あれのどこに悪意がないのか分からなかった。
「正確に言えばほとんどんに悪意がない。お前を苦しめている憶測は提示した奴らが承認欲求を満たす為だけに利用しているツールに過ぎない。自分に自信もなくただの自己満足に飢えているモブたち。確証も根拠もないのに人の心を餌にただただ短絡的な考えに基づいて行われる本能。本人は見ないだろう、バレないだろう、そんなつもりはなかった、これぐらい言われて当たり前だろう、それが説明責任だろうと真正面から本人に直接言葉をかけることができない臆病者たち。そしてそれを甘んじて受け入れてしまいそうになっているのが今のお前だ」
凰介は振り返り月和を見る。
その姿はまさに死に絶え。蛇に噛まれ死を悟り空を見つめるライオンの如くだ。
そんな彼女に凰介は寄る。
そして言った。
「実にくだらないと思わないか?」
その言葉に月和は腹を抱え胸を掴み目を閉じる。
「なぜお前が苦しまなくちゃいけない?」
「………!?」
その言葉に月和の胸が高鳴る。
バカにされると思っていた。嘲笑されると、否定されると思っていた。だが彼から放たれた言葉は慰めだった。
凰介はそっと月和の頭を撫でる。
「お前のことを何も知らない。知ろうともしない。お前よりも努力していない奴らが、その苦しみを知らない奴らが、大変さを知らない奴らが、必死さを知らない奴らがお前を語る資格があるか?断言しよう。ない」
その強い否定の言葉に月和は涙がこぼれる。胸が苦しくなる。
「現実は理不尽だ。どんなに成果を上げてもどんなに頑張っても、一つの失敗ですべてがダメになる。そしてそれを見る観客たちが興味を持つのは最初と最後の結果だけ。過程などどうでもいいのさ。悔しくないのか?赤の他人に、何も知らない奴らにお前の人生をぶち壊されて!後悔させてやりとも!謝罪させたいとも!ぶち殺したいとも思わないのか!!」
その言葉一つ一つが自分の言えない気持ちを代弁してくれていた。
もしそんなことを自分が言って誰かに聞かれたら、また何か変な噂が飛び交うんじゃないかと怖くて言えなかった。
それを彼が代弁してくれた。
「これはお前の人生だろ?これから先の未来の選択肢を捨てることができるのはお前だけだ……お前だって幸せになる義務があるんだぜ、月和」
月和は鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げ。凰介に向かって嗚咽にも似た声で言った。
「ぐ、ぐやじいよ……」
涙が溢れ出た。それが限界だった。月和は凰介の胸の中でまるで雪崩のように涙を流し自分の本心を曝け出す。
「なんでわだじなの…?なんでわだじがこんなにいわれるの?わだじ何もしてないのに!わだじいっばいがんばったのに!たくさんのひどにひどいことばっかり言われて!一人も応援してくれなぐで!ほかのみんなばっがり応援して!!わだじがんばっだのに!……わだじはただ『お母さんみたいになりたかった』だ…け、な……のに……」
「だろ?」
「ゔ、ゔぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
自分の一番言いたかったことを被せて共にハモッて言った凰介。
自分のことを見てくれた。分かっていた人が目の前にいた。それを実感しだした月和はより強く彼を抱きしめ、凰介はそんな彼女を優しく抱きしめ返すのだった。
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