8.卒業制作 後編

 目の前の顔はいつも通りの薄ら笑みを浮かべていた。

 先程の何処かへ消えてしまいそうな儚さは先輩の顔からとうに消え失せていた。


返さないでください!!

……返さないよ。……代えられないものは返さないよ。

え? まさか。はぁーー……、嵌めましたね?

嵌めてないよ。ただ君の本心を話して欲しかっただけ。ただ気を晴らしたかっただけ。

そうですか。

「返さないで」、か。

めっちゃ恥ずいんですけど!

それってさ。

!!

いや、いい。それよりも話を聞いてほしいんだ。

私、美術部だって言ったでしょ? だから、その、卒業制作?したものを持ってきたんだ。


 先輩はそう言って持っていた紙袋の中から作品を取り出した。取り乱していた鳥野郎チキンな僕は少し冷静さを取り戻した。と同時に目を見開いた。

その作品は「オセロ」だった。基本的には普通のプラスチック製の玩具であった。しかし、誰の目にも明らかな特徴があった。「卓球」をイメージして作られたオセロだったのだ。オセロの駒は白黒ではなく赤黒であったし、盤面は緑というよりかは青色であった。無論、それ以外は何の変哲もないオセロではあった。


「作るのは言う程難しくなかったんだ。駒は白の面を赤く塗るだけだったし、盤面は厚紙に線を引けば良かったし。」

「……」

「という事でオセロをします!」


 無論、拒否権はなかった。急展開ではあるが素直に嬉しかった。断定はできないが「もしかすると、もしかすると?」と思ってしまった。何も言わず僕は席についた。


「よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」


 試合が始まった。

 勿論、0-0から。つまり「ラブ・ゲーム」であった。






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