青すぎる春教室

6.夏休みになったら

7月　第1木曜日

こんにちは。

こんにちは。

それどころじゃないんだよ！

挨拶してきたのはそちらでは？

もう7月！　夏休みになっちゃう！

勉強漬けですね。

どうしよ〜。

頑張って下さい。今月末にはテストもありますしね。

そうなんだよね……。というか珍しく高校生らしい会話をしてる気がする。

じゃあ高校生らしくない会話でもしますか？　今回の議題は何でしょう？

うーんとね。現実逃避したいからテスト明けの夏休みの話でもしようよ。夏休みは何かすること決まってる？

とりあえず部活で……その後は塾とかですかね。

やっぱり進学か。

そうですね。うちは進学校らしいですから。

行きたい大学はもう決まってる？

今はぼんやりって感じです。東京の方の大学にしようとは思ってます。

そっか。……じゃないよ！　めっちゃ高校生っぽいじゃん！

確かに。

でも私が第一志望に受かったら学園祭にでも来てみてよ。多分、変なサークルでも設立して待ってるからさ。

ハハハ。　先輩らしい。

夏は夜。

急に何ですか。

今日のもう一つの議題だよ。「夏は夜」らしいけど。君はどう思う。

清少納言が言っているんだからそうなんでしょう。ただ……。

ただ？

昼も捨てがたいなーとは思います。

ほう。

窓が東向きであれば、昼頃には部屋が陰に入って少し暗くなる訳で。でも空は鮮やかな青を呈している。そのギャップというか対比を感じると趣きを感じるというか。

まさしく「あはれなり」だと？

はい。あと……「夏は夜」と同じ論理（ロジック）かもしれませんけど、僕にとって、暑さは喧騒というか、やかましさの象徴みたいな所があるんですよね。でも、一人で部屋にいる瞬間って、当たり前ですけど静寂の最中にいますよね。誰もいないし。加えてクーラーが効いていれば暑さも存在しない。外は明るく五月蝿（うるさ）いのに、中は暗くて、もの静か。昼は明るく五月蝿いのに、夜は暗くて、もの静か。

七月なのに「五月蝿い」ね。それはそれとして「クーラー」が要素として出てくる辺り、「昼もあはれなり」の思考及び嗜好（しこう）は現代的かもね。

そう、なのかもしれません。

ふふ。

？

やっぱり此処は春教室だね。

その心は？

飽きがこない。

ですね。恐らく冬も来ません。先輩と一緒に話していれば僕の気持ちが枯れてしまうこともないでしょうから。

ハハ。ありがとう。やっぱり私は遠藤君のことが……

？

ううん。いいや。というより、改めて私は母さんのことが嫌いだと自覚してしまうよ。彼女はこういう時、「アキは来るに決まってるでしょう。」って言うんだよ？　二重の意味だと知ってか知らずか。

どちらだったとしても厄介ですね。

そう厄介なんだ…と！　もう時間だ！　ここらでお暇（いとま）させてもらうよ。じゃあね。

それでは。

春教室の扉が開いて閉まった。

もう七月。春教室に夏が来た。