第2話 私のクラスの担任はなんか変
「ウィンストン、お前日頃からこんなどうしようもない奴らとつるんでたら碌な大人になれねぇぞ」
「クラちゃん、それは俺達に失礼だろ」
「お前だって俺達と目糞、鼻糞くらいの差しかねぇだろうが」
先生はお酒を一息で半分ほど飲み干すと大声で怒鳴り返した。
「ウルセェボンクラども!俺は今やセーショクシャなの、ちゃんと国で認められた仕事なんだよ」
クライヴ先生は大声で男達と笑いながら言い合い酒をあおった。同時に先生の唾を私は全身で浴びる。
(いっそ、殺してくれ)
クライヴ・アッシュ・クロフトは去年の春に赴任してきた新しい男性教師だ。赴任当初から問題ばかり起こし他の先生からも煙たがられているが常にあんな調子だ。極力関わらないように注意していたが不運なことに新学期から私のクラス担任が産休のため今のクライヴ先生に変わるという状況になった。
しかしこの男は他の教師と比べると一般常識がズレている。
一つ目、授業に遅刻する、しかも理由が前日にお酒を飲んで二日酔いときた。
二つ目魔法の詠唱を間違える。簡単な下級生でも使えるような魔法も失敗する。
三つ目、不潔。
など、今まで私が出会ってきた中で最も関わりを持ちたくない人物だった。
「好きでここにいるわけじゃありません。家に帰るのにここの道が一番近いんです。通ろうとしたら捕まってしまって...」
私は声を抑えてまわりに聞こえないように先生に耳打ちする。
「ああ、そういうこと、おい、テメェら道開けろ。俺のかわいい生徒が怖くて通れねぇってよ。どけ」
先生は立ち上がると道を独占していたゴロツキ達を足蹴にして道を切り拓いてくれた。私は慌てて立ち上がり後に続く。
「お嬢ちゃん、ちょっと待とうよ。せっかく来たんだからさぁ、もう少し遊んで行こうよ。まだ座って一〇分も経ってないじゃん」
私をここに引き入れた男とは別の若く身長と体格の大きい男が私の手首を掴んだ。口調と表情は柔らかいが掴んだ手の力は強くびくともしなかった。目も笑っていない、そして血走っていた。
「おい、やめとけ、クラちゃんの学校の生徒さんなんだ。帰してやれブルーノ。悪いね、お嬢ちゃん」
「ウルセェ、ダン爺は黙ってろ」
ダン爺と呼ばれた男が私の手首を掴んでいるブルーノを諌めてくれた。気を遣ってくれたようだがブルーノは腕を離してはくれない。それどころか私に一歩近づく。私の鼻腔を刺すような薬品と体臭に思わず顔を歪めてしまう。それが余計に気に触ったのかブルーノは私の腕を引っ張り後ろから抱きついてきた。
胸や太ももを乱暴に触られる、先ほど無理やりお酒の席に座らされた時と比較にならない恐怖が私を支配し体が硬直し声も出せない。
「ブルーノいい加減にしろ」
ダン爺が止めに入ろうとするが他の男達がそれを阻む。周りは特に問題にしている様子もなく、先ほどと同じく事の成り行きを楽しんでいる。
ブルーノに触発されたのか他の男達も私に近くづいて覆うように取り囲まれる、真っ暗になる。
口も抑えられ、たくさんの手が身体中をムカデのように這い回った。いよいよ。ダメだと思ったその時。
「ぐぁ」という声と共に視界が拓けた。
「何やってんだ〜置いてくぞ〜」
先生が私を囲っていた人達の一人をどうやったのかは知らないが吹き飛ばしてくれた。今度こそ遅れないように先生の服の裾を慌てて掴む。もう二度と離すまい。
「クライヴ!!」
「あ〜ん、どうしたブルーノそんな鼻息荒くして。これから娼館にでもいくのか?」
「ふざけんな、その女は俺が狙ってんだ、勝手に連れてくんじゃあねぇ」
「話聞いてたか?俺は学校の先生でコイツは俺の生徒なの。分かる?こんな掃き溜めみたいな所にいると俺の評価が下がるんだよ。」
「いやいや、クラちゃんこその掃き溜めの中の掃き溜めでだろ」
周りは先生の暴言に対して特に腹が立つことはなく、切り返しどっと笑いが起こる。一人を除いて。
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