過去の影

桜の花びらがほとんど散り、葉桜が目立ちはじめた頃。

パルフェ学園では昼休みが近づき、教室は自習時間の静けさに包まれていた。

そんな中、クラスメイトたちの会話が耳に入ってくる。


「ルキ君って、なんか近寄りがたいというか、態度が冷たいよね」

「うん。話しかけてもそっけないし、ちょっとイヤな感じ」

「前髪長いし、なんか不気味……関わらないほうがいいよ」


彼女たちのひそひそ声が、ロマの胸の奥にかつての痛みを呼び覚ます。


――中等部の頃、女子たちに囲まれて笑いものにされた。

無視されるようになったのは、クラスメイトの女子に告白された時のこと。

「友達のままでいたい」と断ったのがきっかけだった。

腹いせなのか、彼女は俺についての嘘を広め、気づけば孤立していた。

それ以来、女子に苦手意識を持つようになってしまった。


「ロマって、女子にいじめられたせいで男が好きなんだって!」

女子たちが蔑むように笑いながら言う。

「違うっ! そうじゃない……!」

「気持ち悪いから近づくな!」


誰も、俺の言葉なんて聞いてくれなかった。

俺が何をしたって言うんだよ。

どうして無視されたり、悪口を言われなきゃいけない?


いじめられたせいで女子が苦手になったのは確かだけど――

男だからとか女だからとか、好きとか嫌いとか、そんなのよく分からない。

ただ、誰かを蔑んだり、酷い言葉で傷つけることがどれほど心をえぐるのかは、痛いほど知っている。


「ルキ君は、ちょっと人見知りが激しいだけかも?」

そう言ったのは、ココナだった。

彼女は同じ美術部のクラスメイト。

あまり話したことはなかったけれど、彼女の声には優しさがあった。


「ココナは、ルキと話した時どうだったの?」

「素っ気なかったけど、悪い人じゃない気がしたよ。あ、それにね――シキ君と話してるところも見たよ」

「本当に!? その話、詳しく!」

「でもすぐに話が終わっちゃって、何を話してたかまでは分からなかったの。……シキ君、すごく格好良くてつい目で追っちゃうよね!」


――ココナちゃんは、ルキ君のことを悪く思っていないみたいでよかった。


でも、どうしてルキ君は自分から壁を作って、敵を増やすようなことをするんだろう。

ココナちゃんみたいに理解してくれる人が増えたらいいのに。


このままじゃ、ルキ君が孤立してしまう。

前の俺みたいに、あんな思いをしてほしくない。


もっと絵のことも話したいし……ルキ君と、友達になりたい。

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