封印悪魔と未来の聖女 ~悪魔にTS転生した俺は、未来の聖女と共に運命を変える~

デイジー2

封印悪魔と未来の聖女

プロローグ 転生は突然やってくる


 ――誰も居ない深夜のオフィス。

 パソコンのファンが回る音と、カタカタとキーボードを叩く音だけが薄暗い室内に響いている。


「はぁ……こんなブラック企業入るんじゃなかった……」


 そう愚痴をこぼして立ち上がる。


「あぁ~、妹に連絡しとかないと。あいつ、ちゃんと飯食ってるかな……?」


 と、の心配を口にした時だった。

 

 世界が足元から崩れるような感覚と同時に、視界が暗転する。

 オフィスチェアが派手に倒れる音を最後に、俺の意識は途切れた――――。

 


▽ ▽ ▽



 気が付けば満点の星空の中――。

 いや、星かどうかわからないがまたたく無数の光が視界に映る場所だ。


「あれ? どこだ、ここ……?」


 不思議と時間の流れを感じない。

 上下左右の感覚も得られない、宇宙のような場所に俺は一人漂っていた。


「あぁ、これはオフィスで倒れて……そのままダメだったか?」


 盛大なため息を吐いて人生の終わりを悟った。


 両親が早くに他界し妹と二人必死に生きて来た。

 俺にとってアイツを独り残してしまうのが唯一の心残りだ。


 そう、妹の――


「妹の……あれ? アイツの名前、は?」


 思い出せない……。

 唯一の家族である、アイツの名前が思い出せないなんてあり得ない。


「そんなはずは……! 俺がアイツの名前を忘れるなんて……俺の生きる理由みたいな存在なんだぞ!?」


 芯がシッカリしていて、それでもどこか天然で。

 頼りになるのにほっとけない――そんな妹だった。


 失った記憶――。

 あまりに大切なそれを喪失した俺は、狂いそうなほどの焦燥を感じる。


 すると、不意に知らない光景が脳裏で弾けた――――。



▽ ▽ ▽



 眠った覚えも無いのに、気が付けば目を閉じていた。

 瞼の裏には森を望む深緑が広がっている。

 

 その視界の先で、走る人影が写った――。

 


 ――金髪の少女が、粗野な男二人組に追われている。


 木漏れ日も頼りないほどに鬱蒼とした森の中。

 少女は足を挫いて転び、男二人が彼女に掴み掛かろうとした瞬間――。


『致し方あるまい……』


 間近で聞こえたその声は澄んだソプラノボイス――女の声だ。


 声は石造りの廃墟らしき中から響いている。

 扉のアーチ部分から覗く森の中、追い詰められた少女の姿が見える。


(おいおい! あの子ヤバイ!)


 焦る俺を他所に、さっき聞こえた女の声が独特の発音で声を発した。


『裂け、黒曜の風よ――【風の刃ヴェントス・フェルム】』

 

 黒い風が一筋、少女へと迫る男を撫でる。

 

 次の瞬間には男の腕に鮮血の花が咲き。

 もう一人の男の片足は、地に足をつく事は無くなった。


 夢から覚める瞬間――明滅する光と、鎖の鳴く金属音が響いていた――――。





「――何だったんだ? それに襲われてた子、無事だったのか?」


 どこか妹と似た雰囲気をもった少女だった。

 

 と、心配の言葉を口にした時――。

 

 夢で聞いた鎖の鳴る音が耳に響く。

 気が付けば俺の腕には純白の鎖が巻きつき、どこかへと引っ張られ始める。


 鎖の先は真っ黒な空間の穴――ブラックホールを思わせる何かに繋がっている。


 否応なしに闇の球体へと落ちていく。

 光すら逃げられない闇の特異点は、俺の意識と記憶を摩耗させていく。


(これが死? あぁ、もう一度アイツの顔を……見たかったな)



 意識の空白。

 確かに感じた”無”の瞬間の先……。



 ゆっくりと瞼をあげた俺は……薄暗い場所で横たわっていた――――。




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