覗くモノ
地方出身でデザイナーを目指すAさんは、春から首都の名門女子大学に通うため、深名市駅前の新築アパートで一人暮らしを始めた。まだ肌寒い春先のことだった。物価の高い首都を避け、深名市を選んだ。ここなら首都まで電車で3駅ほどしか離れていない。父は若い娘の一人暮らしを案じ、家賃を半分負担する代わりに、最新のオートロック付きアパートを探してくれた。すべてが新しい生活に不安を覚えつつも、まだ見ぬ未来への期待を胸に暮らし始めた。
大学生活が始まって数日、Aさんは明るい性格と社交性で友人や先輩、住人たちともすぐに打ち解けた。だがその頃から、寝室でだけ妙な視線を感じるようになった。ベッドの向かいにある机と、その隣の本棚の方向からだ。感情のない、ただ無機質に見つめるような冷たい気配だった。
ある夕暮れ、Aさんは課題に取り組んでいる最中、消しゴムを本棚のそばに落とした。拾おうと身をかがめたとき、またあの視線を感じ、本棚を見た。その瞬間、Aさんは凍りついた。本棚と壁のわずかな隙間。その暗がりから、誰かの目がこちらを覗いていた。
Aさんはすぐ部屋を飛び出し、管理人を呼んで戻ったが、そこには誰もいなかった。
その夜、Aさんは友人宅に泊まり、翌日、荷物をまとめて実家へ戻った。違約金は父が黙って支払ってくれた。それ以降、Aさんはアパートを離れ、実家から2〜3時間かけて大学に通っている。
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