深名市怪談
ナベッチ
はじめに
深名市に着いて三日目の夜。
アパートの窓から見下ろす街並みは、地方都市らしからぬ眩さで輝いていた。ショッピングモール、オフィスビル、高層マンション──十年前まで田んぼと空き地、そして放置された神社しかなかった町とは思えない光景だ。
北に弥勒山、南は太平洋。その狭間にぽっかりと広がる町、深名市(みななし)。
首都から電車で一時間半というこの地は、好景気に乗って急速な開発が進み、地方の面影を失った「成功した地方都市」の象徴とまで呼ばれている。
だが、華やかさの裏で、治安は目に見えて悪化していた。
奇妙な事件、説明のつかない出来事、行方不明者──そして、SNSに投稿される不気味な書き込み。
「見てはいけないものを見た」
「あの場所には近づくな」
「深名市には“何か”がいる」
そんな噂が囁かれ始めたのは、ここ数年のことだ。
ネットではいつしか“深名市の呪い”と呼ばれるようになっていた。
私は週刊誌の記者として、その真偽を確かめるべくこの地に滞在している。
取材の経過を記録し、もし私自身が“何か”を体験してしまった時の証拠として──この日記を残しておくつもりだ。
*
今、この文章を書き終えて、ふと顔を上げた。
窓ガラスに映った私の背後に──誰かが立っていた。
ゆっくりと振り返る。
……誰もいない。
慣れない土地での取材が、神経を過敏にさせているのだろうか。
だが、ガラスに映った“その誰か”は──確かに笑っていた。
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