第2話part2

「さて、行き先は服屋と、あと……リサ、何処か行きたいとこ、あるか?」

「うーん……情報」

「へ?」

「世情に関する情報が閲覧できるとこ」

「情報の閲覧か……それじゃ、まずは図書館に……」

「……」

「どうした?」

「今、誰かに見られているような気がした」

「そう?気のせいじゃないか?」

「そう、かも……」

「さ、気を取り直して行こうか」


午前9時 市立図書館

半年前にリニューアル工事が終了したばかりの、コンクリート製の建造物。

その入り口の前で開館を待っていた侠弐達は、それを知らせるチャイム音と同時に、中へと入っていった。

「うわぁ、改装したのは聞いてたが、こんなに様変わりするとは……」

「……本、いっぱい」

蔵書数都内1位を誇る場所だけあり、大量且つ多種多様な書物の類が棚に陳列されていた。

「さて、何を見る?」

「……新聞」

早速2人は、新聞コーナーに行ってみる事に。

其処も当然のように広く、1部屋全てが費やされていた。

しかも、電子版も置かれているとの事。

リサは侠弐に手伝ってもらいつつ、備え付けのタブレットを使用し、同じ日付の新聞を何誌分かセレクトした。

そして、椅子に腰かけ、画面をスクロールし、読み始める。

彼女の眼を通す速さは尋常ではなかった。

1誌を読むのに1秒とかかっていないのだ。

隣で見ている侠弐は驚きつつも、読む量から長丁場になると予想し、彼女に先程通り抜けてきた小説コーナーにいる事を伝え、その場を後にした。

それから、約1時間半後。

ソファーに座り、本を読んでいた侠弐の元に、リサが戻って来た。

「終わった?」

頷くリサ。

「因みに……どのくらい読んだんだ?」

彼女は口の代わりに、左指を5本、右指を2本立てて見せてくる。

「7カ月?」

「7年」

「7年!?」

「侠弐、声が大きい」

「あ、あぁすまん。え、それさっきの時間で全部読んだのか?」

「全部じゃない。テレビ欄と為替と株価と広告、通販も抜かしてあるから、読んでるのは半分もない」

「にしたって……凄いな、リサ」

「そう?……でも、少し疲れた。隣、座っても良い?」

「いいよ」

リサは侠弐の左隣に座ると、彼にピタッと密着し、頭を肩に預けてきた。

「!」

そして、そのまま目を閉じ、眠りにつく。

(周囲に敵がいない状況にこの快適な空間、そりゃ眠たくなるか……)

「少ししたら起こそう……」

侠弐は視線を本に戻し、読書を再開した。

「ん……んぅ……侠弐……」

隣から聞こえる吐息と寝言によって、全く集中できなかったが、彼の心は大いに嬉しさで満たされていた。


それから20分が経過し、侠弐はリサを起こすことにした。

彼は、恋人の寝起きの良さに舌を巻いた。

自身が一声かけるなり両眼をカッと見開き、飛び上がるようにして目を覚ましたのだから。

焦りの表情を浮かべながら発した第一声は、

「私、どれくらい寝てた?」

であった。

大体の時刻を教えられると、彼女は深いため息を吐き、右掌で顔を覆った。

「そんなに寝てたなんて……信じられない……」

どうやら彼女は、熟睡していたことを非常に気に病んでいる様子であった。

侠弐は、落ち込む彼女を何とか励まし立ち上がらせる。

そして、そのまま出口へ向かい、図書館を後にした。

「さて、次は何処に行こうか?」

「20分あったら何回?否、何百回殺られて……」

「リサ?」

「!ご、ごめん」

「良いって良いって。それより、次どうする?服屋行く?」

「服屋?」

「ほら、左袖」

リサは、肘下あたりで焼き破れた袖に視線を移す。

「……別に、寒くはないけど」

「否そうじゃなくてさ。その服、多分何年も着っぱなしだろ?替えの服が要るんじゃないかなって」

「否、特に。これ、結構気に入っているし」

「別にそれを捨てるわけじゃない。でも、何着かお洒落なのがあっても良いんじゃないかな、と思うんだけど」

「……」

(結構頑固だな……でもまぁ、長年一緒に死線を潜り抜けてきた物だし、愛着がわくのも仕方ないか)

「……見たい?」

「ん?何を?」

「侠弐は、私のお洒落してるとこ、見たい?」

瞬間、彼の頭に、リサが様々な衣装を着た想像が浮かんでくる。

「見たい。凄く見たい」

即答であった。


図書館から歩いて10分足らずの場所に位置する繁華街。

長期休暇中ということもあり、学生や家族連れが目立っている。

そんな賑わう街中で、一際存在感を放つガラス張りの高層ビル。

その4階フロアに、侠弐達が目的地にしている服屋があった。

入り口や壁、店内の其処彼処に衣類が陳列されていた。

「それじゃ一旦離れて、好きな服見てくるか」

リサは頷き、店内に入っていった。

続けて、侠弐も。

「さて、何見ようかな……お、これ良いな」

自身が来ている物と同じ、グレーのシャツを手に取って眺める侠弐。

彼は、気に入った服を見つけると、それの同型同色を探して購入する性質である。

物色する事約15分。

侠弐のかごの中には、ズボンやシャツが数点入っていた。

いずれも同型である。

「一通り見たし、リサの方行ってみるか」

歩きながら店内を見渡し、彼女を探す。

(えーとどこら辺に……あ、いた!」

リサは腕に衣類を持ち、壁に掛けられた服を眺めていた。

「……」

「その服が欲しいのか?」

「!……気になってる」

「なら試着してきなよ。ほら、あそこにあるよ」

侠弐は、店の奥にある試着室を指差す。

リサは壁から服を手に取り、その方へ歩いて行った。

その後をついていき、カーテンの前で待つ侠弐。

それから数分後。

「き、着れたよ……」

恥ずかしそうな声と同時に、カーテンがスライドされる。

そこには、天使と形容しても過言ではない可憐な少女の姿があった。

セパレート式ドレスの上部に青いデニムジャケットを着、下は白く長いキュロットスカートを履いたコーデ。

それらの良さを120%引き出す、素材たる彼女自身の美しさ。

「……ビューティフル」

その一言が、侠弐が、今目の前に現れている神秘を形容できる最大限のものであった。

「ほんと?嬉しい」

ちょっぴり照れ臭そうに笑うリサ。

その表情に過去を、ボロ小屋で2人戯れていたあの頃を、侠弍は見ていた。

「それ、着て行こうか」

「え、出来るの?」

「らしい、俺も最近知った」


一方その頃――

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