第105話 S-2 青い星の残骸 -2
生存者は、およそ100人中、わずか30名足らず。
「レオン!無事!?」
キムの声が、今度はすぐ近くから聞こえる。彼女のジェネシスユニット-βも、辛うじて原型を留めている。
「無事だ。負傷者、生存者を確認…」
レオンが周囲に視線を走らせる。
「…ゼノアの行動パターンが…我々の予測モデルを逸脱している、シャルマ」
その時、冷静だが緊迫した声がレオンの脳内に届いた。
ドクター・エリク・ヴァイス。彼はゼノアの解析においては右に出る者がいない第一人者であり、シャルマ・パ・レオ博士の指導的立場にある科学者だ。
彼のポッドは、レオンのすぐ近くの瓦礫の隙間に着地し、無事だったようだ。
彼の顔色はひどく青ざめており、額には脂汗が滲んでいたが、その瞳の奥には、恐怖よりも分析対象への強い探求心が見え隠れしていた。
ヴァイスの隣では、シャルマ博士が自身のタブレット端末を操作しながら、必死に周囲の状況を解析しようとしている。
彼女の瞳は、知的な探求心を宿すものの、今は恐怖と困惑に揺らいでいた。
「ヴァイス博士、はい! これほどの密度で、しかも戦術的な連携…!
常識では考えられません!」
シャルマの声にも、焦燥が滲む。やや離れた場所で、技術者シュミットが自身の携行ツールを巧みに操り、ジェネシスユニットの最終調整を行っていた。
彼の顔もまた、この地獄のような状況に青ざめている。
そして、不意に、瓦礫の陰から、イグニス司令官の姿が現れた。
彼は先の降下作戦にも参加しており、全身をサイボーグ化している歴戦の戦士でもあった。
彼もまた、重い衝撃を耐え抜き、生還したのだ。彼の軍服には煤がつき、顔には疲労の色が濃い。しかし、その瞳には、未だ諦めぬ炎が宿っていた。
「レオン!ヴァイス!シャルマ!シュミット!
…よくぞ生き残った…!」
司令官は、声を震わせながらも、残された数少ない希望を前に、将としての威厳を保とうとしていた。
だが、その視界は、瞬時に絶望に塗りつぶされた。
ドォォォォォン!
大地が震える。
瓦礫の陰から、黒い影が沸き立つように姿を現した。
それは、ゼノア。
無機質な装甲に、赤く輝く不気味な単眼。
一体、一体が、異形の兵器と生命の概念を歪めたおぞましい姿をしていた。
彼らの出現は、あまりにも唐突で、あまりにも数が多かった。
瓦礫の隙間から、まるで地中から湧き出すように、無数のゼノア兵器が姿を現す。
その金属の足音が、地の底から響く不気味な心臓の鼓動のように、レオンたちの鼓膜を震わせた。彼らの体表に刻まれた禍々しい紋様が、まるで生きているかのように蠢いている。
「ゼノア兵器、多数!
四方から接近中! 包囲されます!」
シャルマの悲痛な報告が響く。彼女のタブレット端末は、狂ったように敵影の数を表示し、警告音を鳴らしている。
「くそ…!こんなに早く…!」
キムが焦燥を滲ませる。彼女のジェネシスユニットが、既にわずかなエネルギー残量で軋みを上げているのが、レオンの脳内ネットワークにも伝わった。
ゼノアは、獲物を追い詰める捕食者のように、容赦なく包囲網を狭めてくる。
彼らの動きは迅速で、統率が取れていた。それは、単なる機械の行動ではなく、まるで高度な知性を持った生物のようだった。
「ジェネシス部隊、展開!
全方位迎撃を開始!」
イグニス司令官が叫ぶ。
彼の声は、疲労を押し殺し、命令を下す将軍のそれだった。
レオンが指示を出す。
4体のジェネシスユニットが彼の脳波に完璧に追従し、即座に戦闘態勢に入る。αは前衛でシールドを展開し、βは後方からエネルギー弾を連射する。γは高速で周囲を偵察し、デルタはゼノアの側面を突こうと動く。
だが、ゼノアの数は、圧倒的だった。
彼らは、損耗を恐れず、ただひたすらに前進してくる。瓦礫の山々が、彼らの巨体によって次々と蹴散らされ、まるで紙細工のように崩れ落ちていく。
「ゼノア、増援を確認!後方からも…!」
ヴァイス博士が震える声で報告する。彼の顔は、もはや恐怖に歪んでいた。
彼の言葉が、レオンの耳に届くよりも早く、爆音となって現実となる。
ドォォン!
ドォォォン!
ドォォォォォン!
背後から、複数の新たなゼノア兵器が、瓦礫の山を蹴散らしながら現れた。
どれもこれまで見たこともないほど巨大で、よりおぞましい姿をした個体も混じっていた。
すでに多くを失っているレオンたち、戦闘部隊でどこまで戦えるのだろうか。
しかし、そんなことを言って立ち止まっているわけにもいかなかった。
容赦なくゼノアの巨大な腕が、レオンたちの部隊へと振り下ろされる。
「散開しろ!」
「各個に迎撃!」
レオンとアレンが同時に叫ぶ。
人類の最後の戦いは、絶望的な殲滅戦へと、今、足を踏み入れたばかりだった。
人類側が狩られる絶望的な戦いに…
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