第9章:S-2 地球奪還作戦
第104話 S-2 青い星の残骸 -1
私は、遠い未来の地球から送られた、破損したデータログを復元した。
その光景は、荒廃した故郷の絶望と、それでもなお希望を捨てない者たちの叫びを映し出す。それは、滅びゆく星の最後の輝きであった。そこには、滅びゆく故郷から最後の希望を託されし者たちの壮絶な記録が残されている。
彼らの使命は、故郷を取り戻すこと。しかし、彼らが送り込まれた先は、彼らが知る過去とは異なる、変貌した『ガイア』の姿だった。
この記録は、人類の絶望と、未来からの介入の真実を語る。
そして、この星の根源的な秘密が、ついに明かされる時が来たのだ。
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西暦2600年。
人類最後の希望を乗せた、たった100機の鋼鉄の棺桶が、灼熱の火球となって鉛色の地球へと突き刺さる。
宇宙の深淵から放たれた降下ポッド群は、ゼノアの苛烈な迎撃の中、燃え盛る流星群となって故郷の空へと突入していった。
レオン・ヤマモト・カンブリアの全身を、地獄のような轟音と激しい振動が襲った。
ポッドの機体は、大気圏との摩擦で紅蓮に燃え上がり、外殻が溶融する焦げ臭い匂いが、狭いコクピットを満たした。
脳内ネットワークでは、ポッドの損傷を示す警告がけたたましく鳴り響いている。サイボーグ化された肉体も、この極限状態ではわずかに軋みを上げた。
「レオン!右舷シールドに致命的損傷!
装甲融解率、限界突破!」
耳元で、通信が悲鳴のように響いた。
声の主は、ジェネシスパイロットの仲間、マリー・キム大尉だ。
彼女のポッドも、同じく激しい迎撃を受けているのだろう。
キムはレオンと同じクローンサイボーグ兵士であり、彼の操るジェネシスユニットの一角、火力支援型のジェネシス-βのパイロットを務めている。
「全ポッド、回避行動を続行!
目標座標から逸脱するな!」
イグニス司令官の力強い声が、ノイズ混じりで脳内に叩きつけられる。
彼は、この絶望的な作戦を指揮する精鋭部隊の最高司令官として、レオンたちと同じ降下ポッドに乗って地球を目指していた。
彼の声には、人類の命運を背負う将としての重責と、それでも諦めぬ強い意志が宿っていた。
サイドモニターに映し出される外部映像は、瞬く間に光景が変化した。
無数の降下ポッドが、空中でオレンジ色の花火のように爆ぜる。
ゼノアの迎撃は、想像を遥かに超えていた。宇宙空間から放たれた異形のエネルギー波が、次々とポッドを貫き、内側から爆散させていく。
破片となった機体が、燃え盛る残骸となって後方へ流れていく様は、まさに無間地獄だった。
「第二小隊、全滅!
第三小隊、応答なし!」
次々と入る絶望的な報告に、レオンの無機質な思考回路の奥深くに、微かな、しかし確かな痛みが走った。
百人の精鋭が、地上に到達する前に半数以上が失われていく。
まるで、人類が投じた石が、広大な宇宙の闇に何の痕跡も残さずに消えていくかのようだった。
「ガーディアン・アームズ各機、状況は!?」
イグニス司令官が叫ぶ。
人類最後の希望を託された巨大ロボット兵器「ガーディアン・アームズ」は、ゼノアの迎撃の最中に、自らが盾となり、切り札としてその巨体を晒していた。
「こちらガーディアン・アームズA-01!
機体制御、限界!
ゼノアの集中砲火を浴びています!
この先は…っ、行かせるか…ぁ…!」
轟音と共に閃光が走り、その機体は空中で赤黒い塊となって爆散した。
続けて、他のガーディアン・アームズからも、次々と断末魔の通信が響き渡る。
「ガーディアン・アームズ全機、沈黙…っ!」
イグニス司令官の通信から、絶望が伝わってくる。
人類が誇った切り札は、地上に到達することなく、空中で藻屑と消え去ったのだ。
彼らが人類の希望を背負い、身を挺して道を切り開こうとしたその犠牲は、あまりにも大きすぎた。
レオンのポッドは、まるで生きたミサイルのように、燃え盛る大気圏を突破し、中東の空へと吸い込まれていく。
眼下に広がるのは、鉛色の空の下、見る影もない瓦礫の山と化した故郷の姿だった。
高層ビルの骨組みは無残に折れ曲がり、異形の構造物群が空を突き刺している。
文明の痕跡は、ゼノアによって完全に破壊され尽くしていた。
この星で生きた記憶を持たないレオンの脳裏にも、それでも人類が「故郷」と呼ぶこの星の痛みが、データとして刻まれるようだった。
「地上まで…あと1000…500…100…!」
激しい振動が全身を襲い、レオンは一瞬、意識が飛びそうになる。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃と共に、ポッドが瓦礫の山に叩きつけられた。
機体は大きく軋み、一部が崩壊する。
ポッドのハッチが開き、外気が流れ込んでくる。
それは、鉄錆と、未知の有機物が混じり合った、異様な、腐臭に近い匂いだった。
レオンはジェネシスユニット-αと共に、辛うじて機能する緊急脱出システムでポッドから飛び出す。
深緑色の装甲に、既に数か所の亀裂が走り、内部の配線が露出している。彼の周囲では、他の降下ポッドの残骸が黒煙を上げ、炎を噴き上げていた。
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第104話を読んでいただきありがとうございました。
S-1「星を紡ぐ者たち:アークナイツ」で明かされた真実、地球奪還作戦とはなんだったのか、ここから新たな独立した物語が始まります!
「ガイア物語」は12種類の独立したストーリーが複雑に絡み合うSFファンタジーです。異世界ものですが、剣と魔法だけではなく、科学が融合している世界です。
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