帝釈天の上座部仏典面白エピソードについて
帝釈天。シャクラという個人名の天(デーヴァ)という種族の帝王(インドラ) であり、釈迦の弟子であり、仏法の守護神。その経典における扱われ方は色々ある。ざっくり言えば釈迦の説法を聞きに来る場合と、過去仏や釈迦(過去生を含む)とその弟子や善人の苦難を助けに来る場合と仏法の守護者として印契を結んだり真言を唱えたりした者に力を貸す場合。
前者のうち、具体的な質疑応答があるもののうち実際に私が読めたのはサンユッタニカーヤ(雑阿含経)の帝釈相応ほか上座部仏典幾つか、あと維摩経。法華経にも出席者として登場する。八千頌般若経でも質問者の役を務めるらしいがそちらは未読。
仏像としては梵天と並んで釈迦如来像の両脇にいる場合と、部下である四天王や他の天部像と並び仏や菩薩より下段或いは人間に近い位置にいる場合が多い。著名なのは京都市の東寺と愛知県岡崎市瀧山寺の帝釈天だが、三十三間堂にもいる。奈良県のお寺にもおそらくはそこそこいる。
仏画としては、釈迦の生涯や過去生を描いた絵巻等に登場し、また十二天の一尊として屏風に描かれる。博物館の仏像・仏画展に行けば割と会えるのではないか。実際私もまだ博物館には六回しか行っていないが毎回少なくとも一体又は一枚はあった。
さてここから本題に入る。私の関心は釈迦の弟子としての帝釈天の姿にあるので、密教にはまだ手がつけられていない。それを前提に帝釈天の面白エピソードを二本紹介したい。他にも大般涅槃経など美味しい話はあるが、今回はあまり知られていなそうなものを。
【夜叉の経】(帝釈相応より)
(あらすじ)
ある日、一人の醜悪な夜叉が帝釈天の玉座を占有した。他の神々が彼を罵倒し退かせようとするが、他人の怒りを糧とする能力を持つ夜叉は罵倒されればされるほど強大にまた美しくなった。事情を聞いた帝釈天が夜叉の前で貴人に対する作法を取り礼儀正しく接すると、夜叉は恐れ慄き、小さくなり元の姿に戻りやがて消えてしまった。
(感想)
怒りは物事を解決しない、というのがおそらく教訓。ここでも武力に訴えず冷静に対処するのも帝釈天の良さだね、というのが推す者の反応。意外に思われるかもしれないが、この帝釈相応シリーズの帝釈天には武力を使ってどうにかする展開はない。
【愛尽小経】
(あらすじ)
ある時帝釈天が釈迦に、解脱の方法の簡潔な説明を求めた。帝釈天は回答を聞いて満足して帰ったが、ここでモッガラーナ尊者(釈迦十大弟子の一人)が帝釈天の態度に疑問を持ち、ちょっと嗜めてやろうとでも考えたのか天界まで追いかけて行く。
モッガラーナが到着すると、天界は宴の真っ最中であった。帝釈天は多聞天と共に彼を歓迎するが、モッガラーナが先程の釈迦の言葉を正しく理解したかどうか尋ねても答えない。続いて帝釈天は見事な高楼を備えた自らの宮殿を見せるが、モッガラーナは喜ばず、神通力を用いて足の小指で地震を起こし宮殿を震撼させる。
帝釈天は観念して先程の釈迦の説法を一字一句正確に答え、満足したモッガラーナは天界から去っていく。
(感想)凄く、この世で王をやっている者らしさがある。多分この宴には遅刻できないなど彼なりの事情があったのだろう。そんな空想も生まれる。
(続く)
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