5,二次試験


 大広間に、鈍い金属音が響いた。ゴドリゲスはゆっくりと階段を下りてきた。整った歩幅、乱れのない呼吸、凪いだ表情。そこに疲労も動揺も見えない。けれどその眼差しは、どこか焦点が定まっていない気がした。

 一角から歓声が上がった。続いて拍手、賞賛のざわめき。演出効果も相まって、ノアールとは違う種類の興奮が場を包んだ。

 だがあれは、勝利の帰還ではない。空洞の中から抜け出してきた者の足取りだ。ゴドリゲスは歓声に応えるため手を挙げて一身に受け止めるが、その目は何も捉えていない。

 次に、俺の名がアナウンスされる。

「コウノ・セッカ、前へ」

 誰も騒がなかった。拍手も起きなかった。

 十数名が脱落し、二人が突破したあとの空気。ここで名を呼ばれるというのは、ある意味で注目でも期待でもなく、“消化”の対象として見られているということだ。

 だが俺は、ただ歩き出す。

 視線を感じる。ノアールが見ていた。観察するような目で。ゴドリゲスも、こちらを一瞥した。だが興味はないらしい。何も言わず、何も問わず、ただ沈黙のまま見守る姿勢だった。

 階段を上る。

 足音は吸い込まれるように静かだった。不思議なことに、緊張はなかった。期待も、不安も、何もない。あるのはただ、あの扉の向こうで“何が起きるか”を、俺自身が知らないという事実だけだった。

 扉の前に立つ。扉の上部になにやら見覚えのない細かな文字が記載されていた。『あなたが壊れたのは、壊れないように頑張ったからです』と。見覚えのない文字であるにも関わらず、なぜだか読めた。もしかしたら、俺が受け継いだ母のRA由来によるものかもしれないが、わからない。ただ、肌が氷に触れたときに冷たいと感じるのと同様に、本能的にその文字の内容が脳内で即座に理解できてしまった。

 扉に手をかける必要はない。俺が近づいた瞬間、機械的な駆動音とともにそれは自動で開いた。その向こうには見えるのは、色も音もない、白い闇。

 俺は一歩、その先に踏み入れた。

 瞬間、360度すべてが白の闇に覆われた。音も影もなく、ここをくぐってきたはずの扉すら消えていた。ただ、空間がある。真っ白で、静止した世界。その静寂の中で、かすかな揺れが走った。波紋のように膨らみ、やがて視界の端に“色”がにじみ出す。

 見覚えのある場所。自宅の畑横にある大地。初夏の夕暮れ。茜の空。湿った土の匂い。かすかな虫の声と川のせせらぎ。その情景の中に、質素で小さな家がある。ファーマーズ・ホライゾンの一角にある、俺の家だった。

 その前に、ひとりの男がいた。ビカク。父親だ。黒い袖をまくり日に焼けた太い腕が汗で光っている。鍬を手に、黙々と土を起こしている姿に戦士の面影はないが、戦闘の傷跡がその太い腕にも刻まれている。今は自称農民の元戦士だ。

 俺の小さな手が木剣を構えていた。8歳くらいの記憶だろうか。俺はそのおもちゃのような木剣を、父の視線が届くところで素振りし、鍛錬に励んでいた。

「セッカ」

 父が畑仕事の傍ら、額の汗を拭いながらこちらを見て言った。

「もっと腰を入れろ。目だけは、剣から逸らすな。こう構えるんだ」

 ゆっくりと鍬を置いて、こちらに来て俺の木剣を取る。鍛えられた大きな身体が小さな木剣を構え、手本を示す。その瞬間、風が止まり、空をも黙らせたような気がした。俺は思い知る。どこまで追いつこうとしても、あの背中は遠い。

 木剣を返され、再び構えて見せるが、父の視線が俺を射抜いた。

「強くなりたいか」

 声が、胸に突き刺さった。――このとき、俺は何も言えず、当時の感情までも思い返される。その感情と共に、劣等感までもが心の中に浸食してくる。それはこの日が、RA適性検査を受け取った翌日だったからだ。

 父さんも俺の無力さに対する落胆を感じ取って、いつもより厳しさを持って俺を鼓舞しているのだろうか。

 紙切れ一枚で“才能なし”と断じられた日。RAーNull、適性ゼロ。世界から切り捨てられたような気がしたのを今でも覚えている。その落胆の感情が胸を支配する。

 父さんはしゃがんで、目線を合わせる。

「普通のRAが使えなくても、お前は劣ってなんかいねーよ。それに、お前には俺にもない、特別なRAがあんだろ」

 俺はただ歯を食いしばって首を振ることしかできなかった。

「そう思えなくても、まあいい。だがな、自分が弱いと思ったとき、そっから強くなれんだ」

 風が吹いた。草がざわめいた。その奥に見えるりんごの木には亡くなった母の墓標がこちらをじっと見守ってくれていた。その景色だけが、今でも胸に残っている。

 白の世界が再び揺れ、強烈なノイズのようなものが視界を覆いつくす。そのノイズの糸が、この空間を再び構築し始めた。

 なんだ。何が起こっている。

 次第に、新たに世界が構築された。それはわずか前日の記憶、景色。それらがたちまち展開されたのだ。

 また同じ選択を俺にやらせるのかと辟易した。その前日の出来事とは。

 ――俺が父ビカクを殺した日の記憶。このオーディションの、つい前日の記憶だ。

 

  ***

 

 試験が終わり、扉の向こうに戻ってきたとき、会場には沈黙が漂っていた。誰もが気まずそうに目を逸らし、ビジョンにはコマーシャルが流れている。それはどこか、意図的な何かを示す沈黙だった。

「コウノ・セッカ。不合格。今すぐ私のもとへ来なさい!」

 ビジョンから重々しい怒号が響いた。観客がざわつく。呼んだのは、審査委員長であるクレイモアだった。

 試験の途中に審査委員長が個別に呼び出すなど、前例がない。他の参加者たちはただ呆然と俺の背中を見ていた。

 すぐさま通されたのは、大広間の奥にある石造りの回廊を抜けた先、古びた扉の向こうの小さな一室だった。音を吸い込むような厚い石壁と、深紅の絨毯。壁には王国の紋章が刻まれていた。俺が足を踏み入れると、奥の椅子からクレイモアがゆっくりと立ち上がる。

 彼は一礼もせずに言った。

「お前は、何を見た?」

 俺は答えなかった。答える必要がないと思った。なぜならその様子をクレイモア自身も、あの中で何が起こっていたのかを見て、そしてビジョン放送を遮断したのをわかりきっていたからだ。

 クレイモアは一歩、間合いを詰める。

「よいか、セッカ。あの試練は、ただの幻影ではない。心の奥底に沈めた“真実”を引きずり出す装置だ。それを、王国の民が目撃することになる。だが、今回はあまりに不適切だった」

「エンタメの“演出”としてはたしかに激しい血の匂いがしますね」

 彼の視線は刺すように冷たい。とんだいちゃもんだ。俺が意図的にあの過去を想起したわけではないのは言うまでもないというのに。

「勘違いするなよコウノ・セッカ。お前がこの試験に参加できているのも私の温情も多分に含まれていること。それはお前の父、ビカクが生きていたからだ。この試験は勇者という器を国民に示し、納得してもらうための“演出”だ。単なるエンタメではない」

 言葉の裏に、恐怖と焦燥のようなものが滲んでいた。

「そうですか」

「だから、途中でビジョンを遮断した」

 クレイモアの発言からして、放映中止を決断したのは理解できる。

「あれをすべて映していれば、貴様は“父殺し”として処刑されていた。だが……私はあえて問う。コウノ・セッカ。なぜ、ビカクを殺した?」

 これは尋問でも糾弾でもない。ただひとつの確認として、目の前の偽物の英雄が、自らの保身のために問うたのだ。

 すぐには答えなかった。ただ、まぶたを閉じる。そして、鼻腔の奥に前日から纏わりついて離してくれない、血の匂いがよみがえる。

「わかりました。お話しましょう。ただし条件があります。俺を、この試験――合格にしてください」

「それは無理だ」

「甘く見ないでください。例えば、“偽りの勇者”ということを国民が知れたらどう思うでしょうか」

「……わたしを脅すつもりか?」

「いえ。まあ、よく考えてください。これから“あなたもよく知る”真実の勇者、ビカクの、最後に至るまでの“あなたの知らない話”を始めますから」

 俺が前日、そして再びあのビジョンの中で見た光景。真実の勇者の最後の日の話を。


  ***

 

 父さん――ビカクは、世間的には“無名の戦士”だった。

 でも、真実は違う。

 あのとき、魔王を討ったのは父だ。王国が“英雄”と称えるクレイモアは、ただそれを率いたにすぎない。勇者の称号を与えられたという、それだけの男だ。

 魔王を倒したとき、父はRAを使わなかった。正確には、“使えない”と周囲からは思われていた。けれど、実際は違う。父が持っていたのは――RA-Oアールエー オーOriginオリジン)。この世界の理の外側、“原初の力”。証明はできない。RA-Oは、目に見えるものじゃない。だが、間違いなく、あの人の中にそれがあったらしい。らしい、というのは俺もその能力については今は亡き母から薄っすら聞いた記憶があったからだ。

 魔王アビスレインの首を取ったのは、父、ビカクだ。その真実については父本人から聞いているから間違いないし、クレイモアの反応から見ても、真実に違いない。

 でも、王国、いやクレイモアはその事実を隠した。RAによる勝利こそが、この国の正義であり、支配の根拠だ。既存のRAの枠にない力で魔王を倒したなどと知られれば、王国の体制そのものが揺らいでしまう。だから、王国は真実をねじ曲げた。

 英雄に祭り上げられたのはクレイモアだった。ゴードン家は“勇者の家系”として血統を偽り、名誉を受け継ぎ、権力を握り、王国の政治までもを手中に納めた。

 本物の勇者の血を引くコウノ家は、その陰で使われる側に回った。ゴードン家の犬になった他の名家も知っているが、それを父は拒んだ。でも、それを語る自由すら与えられていない。父は、怒りも、悲しみも、誰にも語らなかった。ただ畑を耕し、母を看取り、そして俺に刀術を教えてくれた。黙って、すべてを背負っていた。そしてこう語った。

「認められなくてもいい。真実に正義はねえよ。真実はいつだって、残酷だ。反抗して、真実を広めて……それでどうなるか、考えてみろよ」

 隠居のふりをしていた父は、農作業の合間に刃を研ぎ、夜な夜な書物を読み漁っていた。それらはすべて、“世界の終わり方”を探るための研究だったのだと、あとになって知った。

 あの日。

 父は、鍬を置いてぽつりと呟いた。

「セッカ。……そろそろ、いいだろう。俺は死のうと思う」

「……は?」

「問題はな、俺が死ぬと魔王アビスレインが復活す――」

「いやいやいや。死ぬって言ったか今?」

「ああ。言った」

 あっけらかんとした顔で、何が問題なんだという調子だった。

 俺が言葉を失っていると、父は「ああ、そうか」と腑に落ちたように頷く。

「ユカリのもとへ旅立つから。……あとは、頼んだ」

 ユカリ。今は亡き俺の母だ。

「……騙されねえからな。クソ親父」

「さすが俺の息子だ」

 父は口の端をほんのわずかに上げた。

「理由はな、いろいろありすぎて、もう説明すんのもめんどくせえんだ」

「説明しろ」

「んー、そうだな……“世界の理には抗えねえ”ってことだ」

「どういう意味だよ」

「だからめんどくせえって言ってんだろ」

 父はそう言って、背中を向けたまま続けた。

「死を過大評価しすぎだってことは、書物に残しておいた。読んどけ。じゃ、死ぬわ」

「待て、意味わかんねーから」

「じゃあ、こうしよう」

 父が振り返り、真っ直ぐに俺を見た。

「お前が俺を殺せ」

「なんでそうなる」

「七一代目の宿命と、七二代目の宿命ってやつだ」ビカクの目はどこか遠くを見ていた。過去と未来、その両方を背負う者の眼差しのように思えた。「これは、誰の物語でもねえ」

 一拍おいて、ビカクは俺の目をまっすぐ見据えた。言葉よりも、魂で語るような声だった。

「俺たちの物語。だ」

「意味わかんねーっての」

「ガキが全部理解する必要はねえよ」

 父は肩をすくめた。

「親の死を乗り越えて強くなる勇者候補。悪くねえだろ? 番組映えもしそうだ」

「あんなエンタメに興味ねえよ。……譲れない目的があって死ぬんだろ?」

 父さんの言った書物。それについてはこっそり読んでいたから、少なからず死を選択する意味もわからなくはない。

「なんだ、知ってたのか」

「……まあ、なんとなくな」

 父さんが常々語っていた『七二代目が世界を選択する』。その意味が、重みが、今になってようやく理解できてしまった。

「親父が死ねば、なにかが動くんだろ? それだけは、わかる」

「じゃあ俺が死ぬ意味も、もうわかってるじゃねーか。クソガキ」

「……まあ、わからなくもねえよ」

「選べ。俺が切腹するのを見守るか。お前が俺の首を落とすか。どっちでもいい。結果は同じだ。過程に意味はない」

 そう言って、父は魔王を討った刀を、無造作にこちらへ放った。

「そいつで、俺の首を落とせ」

「……クソ親父が」

 父は、死に場所だけは自分で選ばせてくれと言った。選んだのは、畑のへりに立つ一本のりんごの木の下。

 その足元には、簡素な墓標があった。母――ユカリの名が、白い石に刻まれている。夕景があたりを柔らかな橙に染めていた。

 ビカクはその墓の前に両膝をつき、首筋をさらした。

「……いつでも、いいぞ」

 その背中には、恐れも迷いもなく、ただ、ひとつの覚悟だけがあると思わせる。

 すべてを背負ってきた大きな背中だった。これからさらに、俺に背負わせようとしている。つまり、どこまでもクソ親父だった。

 俺は特別な存在になりたかったわけでもない。それを背負って、親父のように宿命の中で使命を全うすることに意味も見出せない。

 俺はただの、親父の息子でしかない。コウノ72代目の宿命? そんなの知るか。そう言って刀を投げ捨てたっていい。でも、このクソ親父は頑固だ。死ぬと決めたら死ぬ。この瞬間だけは、俺が選ばなきゃならない。父の望みは、俺に斬られること。

 俺は、透明になりたかった。逃げ出したい。そう思うことは悪いことか。わからない。けれど、父は透明になりたいなんて思ったことはないのかもしれない。俺は、弱い。誰よりも弱い。

 刀の柄を握った手が、汗と震えで滑りそうになる。それでも、重すぎるこの刀を、俺はまっすぐに構えた。

 あんたが言ってたよな。斬るときは、迷うなって。斬られる方が、きっとずっと怖いのに。あんたは、いま、振り返りもしない。

「……ありがとう。教えてくれて」

 小さく呟き、両手に力を込めた。刀を振り上げた瞬間、風のざわめきが妙に耳を打つ。

 そのとき、ビカクがぽつりと呟いた。

「――よかった」

 刀を振り下ろす。

 次の瞬間、鼻腔を血の匂いが満たした。りんごの木は、若い葉を揺らしていた。

 親父は今日という日を予め定めていたのだろう。畑に植わっていた植物はすべて根本から切り落とされ、その養分が大地に還ろうと色を失いつつあった。

 親父の手の中から、一枚の紙片が落ちた。それは、小さく、薄く、汗でふやけていた。

『また会おう。世界の果てで』

 ――ふざけやがって。

 紙片には、強く握りしめた指の跡が、しっかりと刻まれていた。

「なんだよ。……やっぱり怖かったんじゃねえか、クソ親父」

 怖くても進むしかないんだな。感情を超えて。それでも、やりきったあんたを、俺はたぶん、少しだけ誇りに思ってる。

 だから、俺もやるよ。俺のやり方で。


 ちなみに俺は二次試験でも同じ行動、父の首を落とすという選択を取った。

 語り終えた俺の声が、石造りの室内に吸い込まれていく。

 沈黙。

 クレイモアは、無言のまま視線を俺から逸らさずにいた。さきほどまでの威圧感は、なぜかもう感じられない。

「……その話を、君がどこまで正確に知っているのかは知らない。しかし、ひとつ確認させてくれ」

 やがて、クレイモアは硬い声で言った。

「その首を落としたのは、本当に――君なのか?」

 俺は腰に差していた刀の柄に触れ、無言のままそれを少しだけ鞘から抜いた。刀身の根元には、まだその血の跡が残っている。

 クレイモアの眉が、わずかに動いた。

 そのとき、彼の表情に、一瞬だけ影が差した気がした。怒りでも、哀しみでもない。友人を悼む目にも思えた。

「……馬鹿な男だ」

 ぽつりと呟いたその声は、たしかに哀しみのようにも聞こえた。

「だが、彼らしい最期か。……すべてを飲み込んで、尚、他人に託すことしか知らない」

「言ったでしょう。俺は、あなたの要望した真実を語っただけです。あなたの希望は果たしました。条件を飲んでいただけますね?」

 クレイモアがしばしの思考を巡らせ、答える。

「いいだろう。君は二次試験を通過した。……だが、ひとつだけ条件がある」

 その声色には威圧でも情でもなく、長年政に染まった者の、慣れた打算があった。

「復活するであろう魔王を、もし君が討ったならば、その功績はすべて、ゴードン家のものとしてもらおう。名誉も、記録も、伝承も、だ」

 俺は一瞬、言葉を失いかけた。だがすぐに、口の端にわずかな笑みが浮かんだ。

「……くだらない。さすが、権力にしがみつくゴードン家らしい条件ですね」

 クレイモアは黙して応えない。

「けどまあ……わかってますよ。あんたはゴードン家の長、いや、実質的には“コウト王国の長”だ。表向きの体裁も裏側の体裁も守らなきゃならない。誰もが真実に耐えられるわけじゃない。嘘でも、看板でも、平和が続くなら、そのほうが都合がいいって人もいる」

 俺はそう言ってから、わずかに視線を落とし、続けた。

「ただひとつだけ、間違えないでください。これは取引だ。俺は、あんたらの虚飾のために戦うわけじゃない。あくまで父の名に恥じぬために。俺自身の意志で刃を振るう」

 ふと、クレイモアの視線が刀へと移った。

「セッカ。彼の刀を持ち歩くというのは、簡単なことではないぞ」

「ええ。わかっています」

「ならばせめて、振り下ろすときに迷うな。これでも私はコウノ・ビカクという男には最大の敬意を払い、死を悼む心は携えている」

 俺が一礼しかけたとき、クレイモアがふと、何かを思い出したように口を開いた。

「君の父は、“この世界のことわり”について、何か語っていたか?」

「……なにも」

「そうか」

 そう言ってクレイモアは、俺の退室を促した。

 そして、大広間に戻るとただちに俺の判定結果が覆されるアナウンスが流れた。

「コウノ・セッカの試験結果について再審議された結果、二次試験の審査については運営の不備が認められたため、その実力は次の最終試験にて見極めることとする」

 すなわち、

「コウノ・セッカ。二次試験を合格とする」

 なんとも後味の悪い合格判定だが、まあいい。俺は勇者になり、この世界の真実を取り戻す。

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