赤い屋根の廃墟

俺が耳にしたのは、地方の深い山中にぽつんと佇む赤い屋根の廃墟の噂だった。

バーの心霊好きマスターの話では、『七日間滞在してはならない』という怪しい伝承がついて回っているらしい。


正直、俺はそういう話には懐疑的だ。

心霊スポットの怪奇現象は、ほとんどが何かしらの科学的説明ができると思っている。

今までも色々な心霊スポットに行ったが何も起きなかったし何も見なかった。

だが、今回の取材は少し違う。

それは俺を本気で止めるマスターの顔を見れば一目瞭然だ。

もし、この廃墟で本当に不可解な現象が起きるのなら、それを証明する絶好のチャンスだ。


俺はいつもの撮影機材を背負い、山道を車で走った。

電波は次第に途切れ途切れになり、スマホの地図もところどころで表示が乱れる。

それでも、俺は引き返さなかった。


夕暮れが森を染め始める頃、赤い屋根が見えた。

他のどんな建物よりも鮮やかで、森の緑と対照的だ。

遠目にはまるで生きているかのように光っているようだった。


「ここが、噂の赤い屋根の廃墟か」


足元の草が風に揺れ、静寂の中に小さなざわめきが混じっている。

この場所の空気は、確かに何かが違うと俺は感じた。


けど、怖気づいてなんかいられない。

これが最高の動画コンテンツになるかもしれないんだ。


俺はカメラを取り出し、レンズを赤い屋根の方へ向けた。

7日間、ここで撮影を続ける。真実を追い求めるために。

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