第5話 眼鏡の奥の熱情

 明香里との衝動的な情事、七瀬との孤独を埋める密会を経て、零の心は、得体の知れない高揚感と罪悪感の狭間で揺れていた。そして、葵からの「支配されたい」という告白は、零の内に秘められた性的好奇心に、これまでとは違う、新たな形での刺激を与えていた。明香里のように衝動的でも、七瀬のように受け身でもない、葵の言葉は、零に、彼女を「支配する」という、新しい感情の扉を開かせた。


 それから数日後、零は生徒会室で葵の仕事を手伝っていた。生徒会室は、生徒がめったに立ち入ることのない、校舎の奥にある密室だ。昼休みを過ぎ、二人きりの空間で、零は葵の真面目な仕事ぶりに感銘を受けていた。彼女は、完璧な生徒会長の仮面を被り、膨大な量の書類を前に、一言も弱音を吐くことなく、黙々と作業を続けていた。


「葵先輩、生徒会の仕事って、本当に大変なんですね」

「……そうだな。誰かの役に立てるという喜びと、期待に応えなければという重圧。両方を感じる」


 葵は書類から目を離さず、そう答えた。しかし、その言葉には、普段の完璧な生徒会長とは違う、僅かな疲れと、重圧が滲んでいた。零は、彼女が背負っている重さを感じ取り、なんとかしてその重圧を和らげてあげたいと思った。


「君は、私をどう思う?」


 突然の問いかけに、零は戸惑う。零は、彼女を尊敬し、完璧な先輩だと答える。しかし、葵は零の言葉に満足せず、零を見つめた。彼女の瞳は、普段の冷静沈着なそれとは違い、どこか熱を帯びていた。


「私は、完璧な生徒会長という仮面を被って、誰かに認めてもらうために頑張ってきた。でも、本当は、誰かに全てを支配されたいと思っている」


 その言葉に、零は息をのんだ。

「私を、支配してほしい。私の全てを、君のものにしてほしい。君の力で、この『完璧な私』という殻を破ってほしい」


 葵はそう言って、零に一歩近づいた。彼女の吐息が、零の頬にかかる。零は、彼女の言葉の裏にある、「自分の努力や才能を心から認めてほしい」という切実な願いを理解した。そして、その願いが、彼女を「支配されたい」という願望に繋がっていることも。


 零は、葵の強い意志と、その裏にある弱さに心を揺さぶられた。零は、葵の手を握りしめると、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、強く頷いた。その瞬間、二人の間に、言葉を必要としない、特別な関係が築かれたのだった。


 葵は、零の手のひらに自分の手を重ねると、零のシャツのボタンを一つずつ外していく。

「零くん……さあ、私の願いを叶えて」


 彼女の指が零の胸元をなぞる。零は、葵の強い意志と、その裏にある弱さに心を揺さぶられた。零は、葵の身体を壁に押し当て、その唇を塞いだ。それは、明香里とのキスのような衝動的なものではなく、七瀬とのキスのような甘いものでもなかった。それは、支配と従順が入り混じった、強く、そして熱いキスだった。


 葵は、零の愛撫に抗うことなく、むしろ、自ら零の愛撫を求めた。零の手が、彼女の制服の中へと滑り込む。彼女の肌は、零が想像していたよりもずっと滑らかで、柔らかかった。葵は、零の愛撫に身を震わせ、眼鏡の奥の瞳は、快楽に揺れていた。


 零は、葵の身体を抱き上げ、机の上に寝かせた。書類の山が、音を立てて崩れ落ちる。零は、葵の制服を脱がせ、彼女の柔らかな身体を露わにする。零の視界に飛び込んできたのは、機能性を重視したシンプルで落ち着いた色のインナーウェアだった。それは、彼女の洗練された美しさを際立たせていた。


 「零くん……お願い……もっと、私を、支配して……」


 葵の声は、命令口調ではなく、零への切実な願いへと変わっていた。零は、彼女の願いに応えるように、その身体を深く、そして熱く求めた。


 生徒会室という密室で、零と葵の身体は、互いの欲望を満たし、重なり合っていく。それは、完璧な生徒会長の仮面の下に隠されていた、葵の従順な願いと、零の承認欲求が深く結びつく瞬間だった。葵は、零の支配的な愛撫と性的な行為を通じて、完璧主義という殻を破り、心の底からの快楽と解放を味わう。そして零は、彼女の願いに応えることで、また一つ、自分の存在価値を確かめるのだった。

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