第52話 ゴブリン・スミス

 コアが龍脈から吸い上げるマナがあるとはいえ 『ダンジョン』の中で生産されるモノのみで、冒険者を返り討ちにし続けようと思えばかなり大変なことになるだろう。


 なぜならコアが龍脈から吸い上げるマナがあるとはいえ、その上限がある以上、例えば冒険者が大挙して押し寄せてくれば、冒険者を肥やしにしてポイントに変換できる量よりも冒険者によって倒されたモンスターの損失分のポイントの方が多いので、攻め続けられてしまえばいずれはポイントが底をつくかもしれないからだ。


 そんなとき強力なスキルを複数持つ強いダンジョンマスターであれば、自らが先頭に立ち陣頭指揮を執ることでモンスターを鼓舞し、戦況を一気に変えるなんて荒業を行使することも可能ではある。


 しかし強い力を持たないダンジョンマスターにはそのような脳筋プレーを出来るはずもなく、ダンジョンが冒険者たちに発見されるまでの間に、どれだけ迎え撃つための準備を進めていられるかが生き残るためのカギになるのではないかと考えられる。


 運の良いことに、オレがコアによって与えられた≪等価交換≫というスキルは直接戦闘系の能力は欠片ほどもないが、迎え撃つための準備を構築するには最適すぎる力があったと言えるだろう。


 異世界の物を取り寄せて、転売をすることで買値よりも多くのお金を手にできる。その儲けた分のお金を使って戦う準備を進める、というわけだ。


 確かに簡単にお金を手に入れることが出来るというメリットはあるが、これは人間の町があってこそ意味があるスキルであり、例えば冒険者に責め続けられるなんて状況に陥ってその対処に追われてしまえば、お金を手にできるという強みがなくなってしまう。


 だからマスターである俺がダンジョンにいながら防衛力を維持・強化できる手段……つまり龍脈だけによらないポイントやお金を自活できる手段を考えなければならないと思った。


 始めは折り紙を作って内職に励み、ミルワームを育ててポイントを手にいれた。


 ただ、いずれはそれだけでは足りなくなってしまう未来が来るだろう。例えそんな厳しい未来が来なかったとしても、今は大丈夫だからと胡坐をかき警戒しないことは愚の骨頂だ。


 日々、穏やかな気持ちで過ごすためには絶対的な防衛力と高い継戦能力が必要なのだ。と、いうことで、すべてがダンジョン内で完結できるような金策・ポイ活を進めることにした。


 そうして損失を覚悟で、内職など細かな作業などをゴブリンに色々と挑戦させてみたところ――――


「ものづくりに特化した力を持つ『ゴブリン・スミス』っスか。こんなの見たことも聞いたこともねぇっス」


「やっぱりそうか。コアの召喚一覧表にもこんなヤツいなかったからなぁ。でもどうしてこういった能力を持つゴブリンが今まで産まれてなかったんだろうな?」


 ゴブ造と名付け新しい進化を果たしたゴブリンが、新種であると言われたことを誉め言葉と受け止めたらしく、恥ずかしがるように頭をポリポリと掻いた。美男美女が同じ仕草をすれば様になるのだが、ゴブリンではな……


「ゴブリンという種は基本的に狩猟や採取を生業とするモンスターっスからねぇ。武器や防具が必要になっても人間から奪ったものを使うだろうし、多少の修繕をしたとしても、それを専門にするような個体はいなかったってことじゃないっスか?」


「なるほど、必要ないから生まれてこなかったってことか。新しい種を生み出すことが出来る、≪等価交換≫の強みがまた1つ出てきたってことだな」


 ゴブリン・スミスはアサルトと同じゴブリン・ジェネラルの亜種であり、身体の大きさはオレとほとんど同じ背丈のアサルトより頭1分ほど小さいが、腕の太さや胴体が1.2倍ほど太くて逞しい。


 漫画やゲームに出て来る『ドワーフ』に似た体形と言えばちょうどいいだろう。元は普通のゴブリンだったが『合成』を繰り返すことでここまで立派に成長した。感慨深いものもあるし、これまでの苦労を考えると心を打つものもある。


 折り紙を折らせることで手先のトレーニングと空間認識能力と忍耐力を鍛えさせ、ある程度成長を感じられたら冒険者の身に着けていた傷やへこみのある防具の修繕などに着手させた。


 やはりゴブリンは種としてあまり手先が器用とは言い難く、ダメにしてしまった胸当てや籠手も1つや2つでは無かった。それでもあきらめず何度も失敗を重ね少しづつ成長を積み重ねていき、ゴブリン・スミスという新種の誕生へと繋がったのだ。


 自分がこれまで挑戦してきたことが間違いではなかったという自己肯定感を覚える一方、ま、実際に頑張ったのはゴブ造なんだけどね、という冷静にツッコミを入れる自分もいる。


 とりあえずダメ元出始めた試みではあったが、大成功だったのでオールオッケーだ。他のゴブリンにも色々と経験を積ませていって、難攻不落の巨大ダンジョンに近づけたい。

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