第32話 誰のための仕組み?

「ベ、別ノ強キ種族ニ進化スルコトガ可能ナノカ!?」


「おう、そう言ったつもりだったんだが違う意味に聞こえたのか?」


「ソウデハナイ、驚イタカラ聞キ返シタノダ!ソレホドノ力、一体ドコデ手ニ入レタッ!?」


「生まれつき、になるだろうな……おいクロ。そんなに驚くことなのか?レベルアップを繰り返していきゃあ、モンスターって自然と強い個体に進化できるんじゃないのか?」


 育成ゲームであればモンスターが強くなれば変化……強い種族へと進化することは当然だった。そんな前提があったからこの『合成』も単にポイントを節約できる方法としか考えていなかった……が、このオーガの驚きに染まる表情を見るに、どうやらその考えは間違っていたらしい。


「そんなことねっス。ゴブリンはゆりかごから墓場までゴブリンのまま、それがこの世界の常識っス。そんな常識を無視できるだけの強力なスキルがマスターに与えられた権能っス!」


「ほほう……つまりオレって、実は結構すごかったんだな!!」


「全っ然すごくないっス!すごいのはスキルを与えて下さった創世神様の方っス!ヘタレなマスターのクセにいい気になるんじゃないっスよ!!」


「ンなこたぁ分かってるって。ただ、ちょっとだけ自分に自信が持てたっていうかいい気分になれたっていうか……ねぇ?」


 動物や植物がマナによってモンスターに変化すると聞いていたからてっきりレベルアップによってモンスターが進化するものだと思い込んでいたが、どうやらそれは間違いだったらしい。


 しかしそうなると別の疑問が降ってわいてくる。


 「ちょっと関係ない話で悪いんだけどさ、ゴブリン・ジェネラルとかゴブリン・ソルジャーとかっているじゃん?野生下のこういった上位の種族って親からの遺伝なのか?」


「基本的にはそうっスけど、親がジェネラルだからといって子供が絶対にジェネラル種になるとは限らないっス。まあ、親が上位種だったら子供も上位種になる可能性があるっスけど、下位種の両親から上位種の子供が生まれることは絶対にないっス」


「ふむふむ」


「でも極稀に親とは違う性質を持ち強力な力をもって生まれることがあるっス。それが赤・ゴブリンとか、ゴブリン・アサルトといった亜種になるっス」


 確か赤・ゴブリンはゴブリンの亜種で、ゴブリン・アサルトはゴブリン・ジェネラルの亜種だったな。


「亜種の親から亜種の子供が生まれることもあるっスけど、基本的には原種が生まれるっス。強い力を持つ亜種がポンポン生まれれば、世の中のモンスターは亜種だらけになるっスからね」


「そういうモンだったのか。レベルアップって仕組みがあるから、てっきり進化とかもあるって思いこんでしまってたな」


「そもそもレベルアップという仕組み自体が肉体の基礎スペックが低くて、オマケに上位種のいない人間とか基礎能力の低い種族のための仕組みっスからね。ただでさえ強いモンスターがレベルアップでポンポン進化すれば、人間じゃあモンスターに太刀打ちできないっス。すぐに淘汰されちゃうっス」


「人間のための仕組み?」


「そうっス。ただのゴブリンでも、上位種のゴブリン・ジェネラルからすれば同胞なので守って貰える可能性があるっス。でも能力の高い上位種のいない人間はそうはいかない。人間はレベルアップしなければ、どうあがいたって基礎的な身体能力の高いトロールやサイクロプスに簡単に蹂躙されて終わりっス。努力をすれば弱い種族でもこの弱肉強食な世界でも生きていくことが出来る、レベルアップはそのためのシステムっス」


「なるほどね~」


「だから人間のような基礎スペックの低い種族は基礎スペックの高い種族よりも比較的簡単にレベルアップすることが出来るっス。まあ、ドラゴンとか長命種ならレベルが上がりにくくてもすんげえ長い寿命のおかげでべらぼうに高いレベルを保持しているっスけどね」


 クロと話し込んでいたので気が付かなかったが、オーガがようやく思考の海から戻て来たらしい。何か聞きたげな表情(多分)を浮かべている。


「どうした?」


「オ、俺モ、族長ノヨウナ『レッド・オーガ』ニナルコトガ出来ルノカ!?」


「さっきからそう言っているだろ?実際、ウチのゴブリン・アサルトも元はただのゴブリンだったからな。合成を繰り返してここまで成長させたのさ」


「コ、コ奴ガタダノ、ゴブリンダッタノカ!?」


 いつの間にか近くに来ていたゴブ助が手を腰に当てて偉そうにふんぞり返っている。……この何気ない動作も、だんだんとクロに似てきたな……


 子供とというのは親の良くないところが似ると聞いたことがあるが、まさしくその通りだ。もっともゴブ助がクロの子供という訳でもないんだけどな、その背中を見すぎて似てしまったのだろう。


「つっても、コッチにだってそれなりに対価が必要となるからな。お前の働きが良ければそれなりの待遇を用意してやるってことさ」


「ソウカ……俺ノコノ手デ皆ノ仇ヲ打ツコトガデキルノカ…!」


 レベルアップを何度も経験したことで、オーガの村を壊滅させたほどの力を持つ冒険者たちを、自らの手で復讐を果たすことは難しいと思っていたようだが、それが叶う希望が出来たことで気合が入っているように見えた。


 いいよね、やっぱり生きるためには大きな目標が必要だ。そういう意味ではオーガにいい情報を与えることができたな。オレも生き残るという大きな目標を叶えるために不断の努力を継続しよう。

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