第17話 『合成』

 ゴブリンの数も4体を超えたある日、≪等価交換≫でミルワームのエサを購入しようとした時いつもと違うアイコンが出現していた。


「『合成』?何だこれ」


「どうしたっスかマスター?」


 いつものようにコアの近くで漫画を読んでいたクロが呼んでもいないのにフヨフヨ飛んできた。毎度のことのように自分が見やすいようにウインドウとオレの間に陣取るため、邪魔をするなと言う風に手で押しのけて話を続ける。


「≪等価交換≫のウインドウに新しいアイコンが出てたんだ。とりあえず押してみるか……」


 映し出された画面には



 ゴブリン × ゴブリン → 赤・ゴブリン



 となっていた。


「これは……育成ゲーム的に言えば、モンスター同士を配合することでより強い仲間を手に入れるって、そんな感じなのか?」


「そうみたいっスね。これを見た感じ、ゴブリン同士を掛け合わせると『赤・ゴブリン』になるっスけど、どうやらミミック・スライムとゴブリンを掛け合わせることは出来ないみたいっスね」


「相性の問題なのかな?……っと、そういえばダンジョンコアでの赤・ゴブリンの交換ポイントは確か1,500ポイントだったよな?ってことは500ポイントのお得ってことか……」


「なっ……!マ、マスター!まさかゴブ助たちをこんなよく分からないスキルに投入するつもりなんスか!?し、信じられないっす!マスターには人の心ってモンがないんスか!?」


「いや、なくはねぇよ。でも少しでも効率よく自軍の強化をしようと思ったら、やっぱ小を切り捨てて大を生かす方が良いに決まってんじゃん」


 口を押さえ、信じられなものでも見ているような視線を向けるクロを無視して画面を進めてみると『合成』に必要な対価として5,000円が必要であると表示され、『本当に合成しますか?』再度忠告するような警告文が書かれていた。


 ≪等価交換≫の能力だから、やはりお金を消費することで能力を発揮するのか。ポイントの削減にはつながるが、高価な現代兵器を買いそろえる目標には遠のいてしまうな。


「ゴブリン同士の配合では赤・ゴブリンにしかならないのか?……ん?よく見たら『ゴブ助』と『ゴブ吉』の配合しか表示されていないな」


 この2体の共通点と言えば、召喚したばかりの2体と違ってそれなりに経験を積んでいることだろう。いうなればレベルアップしているというわけだ。レベルを上げた個体、それもまた『合成』には必要な要因であるわけだな。


 つまりモンスターを召喚した瞬間に『合成』することはできないということだ。まあ、それぐらいのデメリットでもなければ優秀過ぎる能力になってしまうか。


「さて、ゴブ助、ゴブ吉。お前らを今から『合成』する。合成した後のお前らがどうなるか分からんが、不甲斐ないマスターを許して欲しい」


「うわああああんっ!マスターは鬼っス、悪魔っス!地獄の帝王っス!なんでゴブ助たちを見殺しにするようなヒドイことができるんスかぁああ~~!!」


「自分が死なねぇために決まってんだろ。ってか、コイツらが死ぬって決まったわけじゃねぇし。じゃあな、お前ら。今までの忠義ご苦労だったな。あの世があるか分からんが、再会したときは一緒にメシでも食おうや」


 言葉は通じないけれど、2体のゴブリンからは『気にしていませんよ。マスターのお力になれて本望です』って感じの波動が伝わって来た。


 大規模なダンジョンだとコアによって自動的にゴブリンが召喚され、毎日のように挑戦してくる冒険者によって機械的に殺されるのだと聞いたことがある。


 それを思えば、こうしてミルワームの生育のお手伝いっていう他のダンジョンではたたのゴブリンでは一生経験することの無いようなことを経験させてあげられたことは良かったのかもしれない。


 とはいっても、これはオレのエゴなのだろう。覚悟を決めた表情をしている(オレの主観)。ゴブ助たちをいつまでも放置するわけにはいかない、意を決して『合成』のアイコンをタッチする。


 すると2つの黒い渦が出現してゴブリンたちを包み込み、それが1つに合わさると中からゴブリンよりも一回り大きな赤い体表のモンスターが出現した。


「これが赤・ゴブリンか……普通のゴブリンよりも強そうだな……ん?お前はもしかして…」


 赤・ゴブリンからどことなくゴブ助と同じような波動が伝わってくる。オレの疑問に答えるように、赤・ゴブリンは大きく頷いて見せた。


「お前、ゴブ助なのか!えっ!?じゃあ、ゴブ吉のヤツは……」


『ゴブ吉はここにいますよ』と言う風に、赤・ゴブリンは達観したような顔つきで自分の胸をトントンと叩いた。ゴブリンのくせにその仕草がカッコよくってムカついた。

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