第14話 時給三ケタの男
スライムという触り心地のよいストレス解消モンスターを手に入れたことで、俺は新たなステージへ1歩足を踏み入れることに成功した。
「クックック……ハァーーーハッハッ!!ついにオレも自給40円男から自給100円男に進化したぜェ!!!」
「相も変わらずやってることが地味でショボイっス。ま、初期投資分を回収できるまでは頑張るっスよ~」
折り鶴の売却価格は3円だった。俺の死んだときの価値観が売却価格に反映されるのなら、もしかしたら最初から折ることができる千羽鶴の単価が安く設定されているのではないだろうか?で、あるならば、死亡時に折ることのできなかった折り紙であれば売却単価が上がるのではないのかと考えが至った。
そこから先は葛藤の日々が続いた。
折り紙の本(@1,500円)を買い、新しい折り紙に挑戦するべきか、そうでないべきか。そもそも折り紙の買い取り価格が安く、それは鶴だろうが亀だろうか変わりはないのではないかと言う迷いが頭の中から抜けることはなかった。
だが、今のままで良いのか?という自問自答を悶々と繰り返し、断腸の思いで折り紙の本を買った。
そして折り紙の本に書いてある立体的なうさぎを折った。そうしてその売却価格は―――1体10円という破格の値段だった。初めて折ったことで時間はかなりかかってしまったが、オレの考えに間違いはなかったのだと歓喜に震えた。
それに毎日別の物を折ることで、千羽鶴に汚染された日々に別れを告げることができたというわけだ。あの時一歩を踏み出して本当に良かったと心の底から断言できる。もし、あの日一歩を踏み出す勇気がなければ、今も1羽3円の千羽鶴を延々と折り続けていただろう。
そうして今日、ようやく自給二桁から三桁へと進歩することができたというわけだ。だが、その間に何もなかったというわけではない。何せ初めて折る折り紙ばかりだ。途中で失敗して貴重な紙をムダにしてしまい悔しい思いをしたことも1度や2度では決してない。
その度にストレス解消としてスライムを揉んだのだ。スライムがいなければ、ストレスに負けて今もまだ自給40円男のままだったのかもしれないのだから―――――!!
「そんなみみっちいことをしなくても、ニンゲンを2・3人連れ込んで肥やしにして荷物を奪っちゃえば簡単に稼げるじゃないっスか。なんならオイラがその辺をプラプラしていい感じの獲物を探してくるっスよ?」
「いや、今はまだいいよ。あんま目立つことをして人目を惹きたくないし」
「な~に甘っちょろいコト言ってんスか。マスターのいた世界と違ってコッチは人死に人さらいは当たり前。人が何人行方不明になったってだ~れもな~んも気にしやしないっスよ。それともまさかビビってんスか?」
「ビビってるわけじゃねぇって。こないだも野盗っぽいヤツをヤッただろ?あんま派手に活動して、危険なことをしたくないだけだって」
ザッコス以降もダンジョンに誘引して何人かダンジョンの肥やしにした。
もちろん罪悪感は湧かなかったし、オレのケツの穴を狙う超絶危険人物までいたので肥やしになってむしろ『ざまあみろ!』と思ったヤツもいるぐらいだ。
もちろん、その恐怖体験が尾を引いて及び腰になっているというわけでもない。
なぜならダンジョンマスターになったおかげかオレの身体能力は以前とは比べ物にならないくらいに上昇しており、これはコッチの世界の一般成人男性を遥かに上回るものだったからだ。
クロも初めからそのことを知っていたのだろう。けしかけるような言動が多かったのは、最初からオレが勝てると思ってのことだったというわけだ。
ただ、一般人が相手でも確実に勝てるというわけでもない。肥やしにすること自体に罪悪感はほとんどないが、実際に自分の手で手に掛けることには若干の忌避感を覚えてしまう。そんな一瞬の逡巡の隙を突かれてヤラレテしまう可能性も否定できないからな。
それに今の状態のままではこの世界特有の職業である『冒険者』とやらには少々分が悪いとのことだ。
クロ曰く、冒険者とはモンスター専門の傭兵と例えるのが一番しっくりくるとのことだ。
常在戦場、日々戦いに備えて訓練に励み、敵に対してはモンスターだろうが人間だろうが一切の慈悲をかけない覚悟ガンギマリの頭のネジが何本か緩んでいそうな危ない連中だ。
その上、戦闘力は領主に仕え一般人を相手にすることの多い町の治安を守る兵士とは文字通り格が違う。もちろん戦闘力に差異はあれど、やはり一般的な冒険者ですら並みの兵士を超える戦闘力程度は有しているらしい。
そんな冒険者がこの辺りに来ることはないのかと疑問に思いクロに聞いたところ、ここ周辺はモンスターの数が比較的少ないので、モンスターを倒すことで日銭を稼ぐ冒険者は滅多に来ることはないとのことだった。
クロがつくづく『マスターは豪運の持ち主っス』と言っていたことを思い出す。お世辞でもなんでもなく、本心からそう思っているのだろう。
ならばこの豪運に身を任せ、ウチのダンジョンが大々的に発見されるまではじっくりと時間をかけて、冒険者を返り討ちにできるぐらいの準備をキッチリと済ませたいものだ。
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