第12話 創成神デミウルゴス
「さてと、まずはコイツの死体を片付けて……」
と、言いかけたとたん、ザッコスの死体は光の粒子となって消えた。
「……何か消えちゃったんだけど?」
「ダンジョンの中っスからね、当然じゃないっスか」
「いや、だからオレはダンジョンの常識とか知らないんだって」
「くぅ~!世話の焼けるマスターっスねぇ。本当ならお代をいただきたいトコロっスけど今回は特別にタダで教えてあげるっス!」
読んでいた漫画をパタンと閉じて、クロが目の前にあるコアをペチペチと叩いた。
「コアには死体をポイントとして昇華する能力があるんスよ。あと、身に着けているものとかは『インベントリ』の中に自動で収納されているので確認してみるっス」
ダンジョン内で死んだ生き物がポイントとして昇華する、か。コアをのウインドを開いて確認すると、確かにポイントの残量が俺の計算より500ポイントほど多くなっている。
「ホントだ。500ポイント増えたってことは、ザッコスってゴブリンと同じぐらいの強さだったってことか?」
「ちょっと違うっス。外からの侵入者の死体は、当人の強さをポイント換算したときの6~7割、ダンジョンに召喚されたモンスターの死体は2~3割が死んだときにポイントとしてコアに還元されるんス」
「コアで召喚したモンスターも殺されたらポイントに還元されるのかよ。ってか、召喚したモンスターのほうが還元率が低いんだな。何か理由があるのか?」
「冒険者のような侵入者がモンスターを倒せば、侵入者に対してドロップアイテムを出さなきゃいけないルールがあるっスからね。ドロップアイテムを現界させるマナの分だけコアに還元される量が少なくなるっス」
「そういう仕組みなのか……ってか誰がそんな仕組みを作ったんだ?コアを守りたいなら、ドロップアイテムとか出さなきゃいいだけだろ?ドロップアイテムを出さなかったら、アイテム目当ての冒険者とかダンジョンに来なくなってダンジョンがより安全になるじゃん」
「仕組み……というかシステムを作ったのは『創世神デミウルゴス』様っス」
「なんかスゴそうな肩書の存在が出てきたな……そもそもなんだけどさ、どうしてその神様はダンジョンとかコアとか作ったんだ?」
「ダンジョンだけじゃないっス。この世のありとあらゆるもの、大地も海も青空さえも。地を這う蟲や大空を羽ばたく巨大な大鷲、そしてヒトやモンスターといった生命もデミウルゴス様がお創りになられたっス」
「『創世』の肩書は伊達じゃねぇってことか。話を聞くだけでもどれだけヤバイ存在か伝わってくるな」
「デミウルゴス様は公正な御方っス。どの種族がこの世界の覇者になっても、どれだけ民に圧政をしいたとしても神として干渉するコトはないっスけど、『不死者』がその地位に成ることだけは決してお認めにならないっス」
「不死者?ゾンビとか悪霊みたいな存在か?」
「不死者とは魂や不の感情がマナと交わることで産まれる不浄のバケモノ。世界の存在そのものを脅かすバグのような存在っス。不死者は生者を憎み、不死者に殺された生者は不死者となる。これはデミウルゴス様が創られていない、この世界で最も忌むべき存在の1つっス」
魂や不の感情が元となって産まれる存在か。……ん?確かどこかで似たような経緯で誕生するものがあると聞いた気が……
「デミウルゴス様は不死者をこの世界に産まないために、負の感情や悪しき魂をコントロールするアーティファクトである『ダンジョンコア』をお創りになったっス。コアの力によってダンジョンマスターが世界を統べてもデミウルゴス様はそれをお認めになるはずっス。でも、人に大きく肩入れしないように、ダンジョンマスターにも大きく肩入れをすることはないっス。だから不死者を生み出さないための装置であるコアを誕生させても、そのマスターにとって一方的に都合の良いシステムをコアに組み込むことはないということっス」
ダンジョンが一定以上に広さになればダンジョン内にセーフティーゾーンを設けろとか、一定以上の価値を有する物品を治めた宝箱を設置しろなど、事細かに指示されていたのはこれが理由か。
確かに難攻不落のダンジョンを作ろうと思えば、人に発見される前にダンジョンの入り口を何らかの方法で塞げばいい。それができないということは、やはりダンジョンを作った創世神とやらはマスターに対してのみ融通を聞かせることはないということだろう。
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