第11話 ミミック・スライム
「ひゅ~~っ!マスターもヘタレだと思ってたのに案外やるっスね!」
「まぁな。何っつーか……思ってたよりは大したことがなかったかな?」
人を殺したというのに、思っていた以上に罪悪感が湧かない。
例えるなら食わず嫌いに近いのかな?食べる前は『何でこんなものを……』って思っていた物が、食べてみると案外悪くない味だったって感じだろう。
口と鼻をふさがれたことで呼吸困難になったザッコスは首のあたりを搔きむしり、首から血を流した状態こと切れていた。表情がうまく読み取れないのは『スライム』の酸によって顔全体が解かされたことが原因だ。
顔の皮膚はドロドロに溶け中の筋肉が見えてグロイ画像ではあるはずだけど、案外どうってことないなってのが第一印象だった。まあ、元々グロ画像に抵抗がなかったからかもしれないし、マスターとやらになったことが原因なのかもしれない。
一つ言えることがあるとすれば、これから先、このような場面に何度も出くわすことになるだろうから抵抗がないに越したことはないということだ。
「それにしても、ドケチなマスターのくせに今回は太っ腹だったっスね!まさか8,000ポイントの『ミミック・スライム』をいきなり交換するなんて驚きっス!」
「少しばかり過剰戦力だったような気もするけど、ケチって負けたら元も子もないからな。お前も今回は助かったよ」
言葉が通じているのかどうか分からないが、近くに来ていたミミック・スライムを撫でてやった。
誰が主で誰が敵であるのか、ポイントで交換された瞬間から理解しているのだろう。ザッコスは情け容赦なく溶かしたが、俺がいくら触れようとも酸性の溶解液を出す素振りは皆無である。
これが人一人をアッサリと倒したスライムなのか。何も言われなければとても柔らかくて、ストレス解消グッズとかにありそうな触り心地の良い物体だ。
「おやおやおや、今回はオイラも頑張ったのに感謝の言葉もないっスか~?随分と薄情なマスターっス。オイラは非情なマスターを持ってとっても悲しいっス~~!!」
「分かってるって。今回はお前にも助けられたよ」
「よく分かってるじゃないっスか。でもできれば感謝の気持ちは言葉ではなく物が良いっス!思いだけじゃ腹は膨れないっス!」
「はいはい。お菓子と漫画でいいよな?ってか、俺もお前も飲食は不要だろ……」
≪等価交換≫を発動して、お菓子と漫画を合計で2,000円分ほど購入してクロに渡してやった。俺から奪い取るようにして持ち去ると、コアの近くで腰を下ろしてお菓子の袋を開け漫画を読み始めた。
少しぐらいお礼ぐらい言えよとも思ったが、今回の作戦、確かにクロの働きが大きかったので文句を言うことはたばかられるな。
クロからもたらされた情報でザッコスがダンジョンの近くに来ていることを知ったオレは、確実に倒すために作戦を決行を決意した。
現状の戦力であるオレとクロの2人で倒すことが困難であると判断したので、即座に戦力をポイントにで交換した。コアのモンスター交換覧でウインドショッピングしている時に見つけたミミック・スライムを中心に事前に練っていた作戦を実行に移すことにしたのだ。
まずはターゲットと合流後情報を聞き出しながらダンジョンの元まで案内する。その道中も、ダンジョンにモンスターが全くいないということを何度も言って安心させる。
無論モンスターがいないのにどうして自分でコアを取りにいかないのか疑問に思われないよう、案内する俺がヘタレで下っ端気質丸出しの根性なしだと会話の中で思わせるのがポイントだ。
そうしてコアの元まで案内すれば、獲物は目の前にあるエサ(ダンジョンコア)に集中して天井の一部に擬態するミミック・スライムの餌食になるって寸法だ。
仮にスライムが避けられてコアをダンジョンから持ち出されたとしても、保険としてダンジョン入口上空に待機させているクロが持つ『苛性ソーダ』を頭上からぶっかけてもらうという二段構えの作戦なので、相手が何者であっても易々とコアを持ち去ることは出来ないはずだ。
「それにしても、ダンジョンにモンスターがいないって嘘をどうして信じちゃったんスかね?」
「ほら、漫画とかでもよく言うだろ?『人間は真実よりも信じたいものを信じる生き物』ってさ。ダンジョンにモンスターがいないんじゃなくて、いないって信じたいからそう思い込んだんだろ」
楽に大金を得たい、という欲望は誰もが持っている望みだろう。
情報化社会に生きてきた現代人だって結構簡単に詐欺にひっかかってしまう。あまり文明の発達していないコッチの世界の住民なら、詐欺に気を付けましょうとか犯罪に気を付けてとか耳にする機会もほとんどないに違いない。
ザッコスも頭が少し弱そうだったから、現代人だったら闇バイトとかに引っ掛かりそうな雰囲気があったな。ま、あくまでも俺の印象なんだけど。
「……オイラそんな面白そうな漫画読んだことがないっス」
「そ、そうか。……まあ、そのうち買ってやるよ。オレとお前が生きてたらな」
「いいっスか!?約束っすよ~!」
もしかしたらミミック・スライムよりも、ゴブリン10匹交換した方がポイントの効率が良かったのかもしれない。しかし敵の実力が分からない以上、敵の隙を突いて一気呵成に責め上げる必要があった。で、あるならば、ダンジョン奥深くまで誘引して、コアを手に持とうとする直前の気のゆるみを突くのが一番だと判断したわけだ。
ゴブリン10匹を召喚したらそうはいかない。この世界的には雑魚であるとはいえ、ゴブリンの姿を見た瞬間に逃げられてしまえば大変だからな。追いかけるのも大変だし、人に見つかってもいけない。逃げ切られてしまえば、それすなわち俺の死であるわけだ。
初陣は大成功に終わったな。正直人を殺した罪悪感よりも、無事に敵を倒したという安ど感の方が遥かに強い。……こんな風にして、オレはちょっとずつコッチの世界の環境に染まっていくのだろうか?
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