第4話 クロ

 とりあえず、お手頃価格でそれなりに役に立ちそうなものを物色————の前に、ダンジョンコアでも武器を用意できるらしいから、そっちの方も確認しておくか。


 売却せずに残しておいた荷物を興味深げに見ていた虫歯菌……と呼ぶのも可哀そうだな。


「そういえばお前の名前は何て言うんだ?」


「オイラは精霊ッス。精霊には名前はないッスよ」


「それじゃあ、精霊って呼ぶのも何か変な感じがするしオレが名前を付けてもいいか?」


「もちろん構わないッス。ただ、マスターも奇特な御方ッスね。普通、精霊に名前を付けようだなんて思わないッスよ」


「まあ、コッチの世界の風習とか常識を知らないからな。それで名前なんだけど……バイキ〇マンってのはどうよ?オレがいた世界じゃ強敵を相手にしても決して己を曲げず屈せず諦めず、目標に向けて戦い続けたおとこの名前なんだけど」


「……なんかコンプラ的にダメな感じがするッス。もっと普通なのがいいッス」


「それじゃあ……クロでいいか?」


「う~~ん、それだったらギリギリ許容範囲ッスね」


「よし、それじゃあクロで。それでクロに質問なんだけどダンジョンコアってどうやって操作したらいいんだ?」


「簡単ッスよ。基本的にはさっきマスターが自分のスキルを操作した感じで、コアに触ってもらってッスね……」


 促されるままに乱雑に置かれたままとなっているコアの元に行き、手をかざすと≪等価交換≫の画面の時と同じように半透明の画面が表示された。


 右上に≪等価交換≫と似た感じで『残存ポイント:1,038』と表示されており、画面を眺めていると『1,039』に数字が上昇した。


「何もしてないのに数字が増えたんだけど?」


「ダンジョンコアってのは龍脈から吸い上げたマナを己のポイントに変換する機能があるんスよ。吸い上げる量はダンジョンの広さに比例しているんで、マスターはポイントを消費してダンジョンを拡張しながら戦力拡充をしなければならないんス」


 コアに浮かぶ画面には『モンスター召喚』『魔道具作成』『武器防具鍛造』『ダンジョン改装』『インベトリ』と書かれたアイコンが表示されていて、試しに『ダンジョン改装』のアイコンをタッチしたら消費ポイントと拡張できる広さなどが細かに記載されている。


 つまり『モンスター召喚』ばかりして戦力拡充にポイントを使っていれば入ってくるポイントの入手速度は上がらないが、反対にダンジョンの拡張ばかりにポイントを使っていればポイントの入手速度は上がるけど戦力は乏しいままとなるというわけか。


 次に、最初から気になっていた『モンスター召喚』のアイコンを押してみると、画像付きのモンスターが紹介されている。……ゲームでは雑魚キャラの代名詞として有名なスライムすらも、今のオレより強そうだ。


「ゴブリンが500ポイントで、コボルトが800ポイント。交換できないないことは無いけど、今の少ないポイントじゃ交換する気になれないな。でもモンスターがいないと———」


「ゴブリンやコボルトみたいな弱いモンスターを単品で用意しても、ちょっと強い冒険者には手も足も出ないッス。自分で戦う力をもつマスターなら最初はダンジョンの改装を優先させるんスけど、脆弱なウチのマスターはほどほどに戦力強化をしておかないと冒険者が着た瞬間にお陀仏ッスからね~バランスが大切ッス!」


「う~ん……だったら冒険者が来るまでひたすらポイント貯めておいて、冒険者が来た瞬間にその時の最大ポイントの強いモンスターを召喚するってのも1つの手段だな…」


「それもできなくはないッスけど、ポイントを貯めすぎることにもリスクがあるっス。コアにマナが蓄積されているって言ったッスよね?蓄積されているマナの量が多くなればなるほど、ダンジョンの外から感知されやすくなるっス。つまり外敵からダンジョンが発見されるリスクが高くなるんスよ」


「マジかよ!じゃあポイントってすぐに使わないと危ないのか!?」


「まあ、マスターみたいなド新人マスターなら基本的にはその心配は無用ッス。ポイントが1,000や2,000程度じゃダンジョンの外から感知されることはないッスからね。というのも、ダンジョンにはコアのマナが周囲に感知されないようにする阻害機能もあるッスから。でも保有するポイントが1,000,000とかになると、ダンジョンの外からでもビシバシとマナを感知されるようになるッス」


「なるほど、ちょっとだけ安心した。てかさ、だったらポイントが少し堪るたびに改装でダンジョンを広げ続けたらずっと冒険者に感知されることはないってことか?」


「残念ながらそううまい話はなくってでスね。ダンジョンも一定以上の広さになる度に少しづつ外観が変化していくっス。今はその辺にありそうな自然にできた洞窟っぽい見た目の入口っスけど、ダンジョンが広くなれば入り口も人工物のような大きくて立派な物へと変化するっス。そうなったらすぐに見つかって、コアを狙う連中が大挙して押し寄せてくるっス」


 聞けば、この世界で千年以上にわたって未踏破であるとあるダンジョンは天を突くような巨大な摩天楼のような外観をしており、その高さ故に隣国からでも見えるほど目立つ様相なのだそうだ。


「なるほど。確かにうまい話は無さそうだな…」


 景気よく今あるポイント全てを改装に充てたい気もするが、仮に外敵が出現した場合その瞬間にオレの消滅は確定したも同然だろう。


 やはり保険として常にある程度のポイントは保持しておきたいのが人情というものだ。追い詰められている状況ではあるけれど、シュミレーションゲームをプレーしているみたいでちょっとだけ楽しくなってきた。

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