第2話 異世界の現実ってキビシーわ
どれぐらい時間がたったのだろう。
俺は体中の痛みと太陽らしき光で目を覚ました。頭がとてもクラクラする。
俺は体中傷だらけで地面の上に寝ていたみたいだ。どうやら地面に当たって気絶していたらしい。
あー痛ってぇー。
俺は寝転んだまま空を見上げた。多分あの向こうに俺を突き落としやがった女神がいるはずだ。
「俺がこの世界に必要ない」だと。馬鹿にしやがって。こうなったら、この世界のみんなが俺を必要になるくらい成り上がって、あのクソ女神を見返してやる!
俺は傷ついた体に力を入れてなんとか立ち上がり、周りを見渡す。
向こうの看板に、「初級冒険者の町、スタードへようこそ!」と書いてある。
見たことない町と景色だ。はっきり言って田舎だけど、同じ田舎のじいちゃん家とは全く風景が違う。
どこかで見たことがあるような建物が建っていて、見たこともない植物が生えている。町の外を見ると遠くに見たことのない動物? らしき姿も見える。
どうやら本当に俺は異世界に来てしまったらしい。
本来はうれしいはずだけど、なんとも言えない気分だ。
だって俺は女神に選ばれず、この世界に歓迎されなかったわけだからな。
俺は気を取り直して立ち上がり、周りをよく見てみることにした。
ここはスタードって町か。町並みは歴史の授業で習った中世? くらい昔の感じだけど、道はちゃんと整備されてるな。
お、あそこに店があるな。えーっと「冒険者の酒場 コーンマイン」って書いてあるな。
ん? そういや、なんで俺この世界の文字が読めるんだ?
ま、とりあえず腹減ったから飯でも食うかな、と思ってズボンをまさぐるも、財布がない。スマホもない。
まあいいか、どうせスマホは使えないだろうし。
とりあえず酒場に入ってみると、一目見られただけで「金がない人はお断りだよ」と言われ追い出された。
俺は呆然とした。俺って今この世界で無一文なわけ?
このままじゃ俺生活できないんじゃん。
さすがに恐ろしくなってきた俺は、助けを求めるように周りを見渡す。
そのとき、近くに冒険者らしき人物が通った。
黒色の髪の毛で色が黒く、全身黒色の装備で統一している。身なりのしっかりしたある程度レベルの高い冒険者のはずだ。
顔も一見コワモテだが、目元を見ると同情げにこちらを見ている。悪い奴じゃないはずだ。俺はすがる思いで思わず声をかけた。
「あ、あのー、あなた、この世界の人ですよね? 俺は地きゅ・・いや、ここじゃない世界から来たんです。この世界のこと全くわからないから、この世界のことや、この世界で生きる方法について教えてくれませんか?」
冒険者らしき男は俺を見ると、哀れみと、心底あきれた気持ちが混ざったような顔をしている。
「はぁ。また女神エレクトラに捨てられた異世界人かよ……。ほんと、女神のえり好みも大概にしてほしいよなぁ。誰が世話をすると思ってるんだ……。まぁ、女神のすることだから文句は言えんけどなぁ」
男はブツブツとつぶやいていたが、こっちを見ると一転、優しげな顔をしてこう言った。
「よお。俺はこの町の冒険者のまとめ役をやってるクロだ。お前、異世界アースから来た転生者だよな?」
この町の冒険者のまとめ役だって? やっぱり頼れる人じゃないか。声かけて良かったわ。
というか、異世界アース? 地球のことなのか? 知ってるのかこの人。
「は、はい」
俺は頷く。
「女神エレクトラはえり好みが激しくて、自分の気に入らない異世界人に外れスキルを与えては、これまで何人ものこの町に放り込んでるんだ。要はお前、お前ら異世界人の言う『女神ガチャ』ってやつに外れて捨てられたんだよ」
俺は驚いた。俺は女神に捨てられた? しかも、俺みたいな奴が何人もこの町にいるだと?
許さねぇぞ女神エレクトラ。
俺は胸に手を当て、気持ちを落ち着かせてからクロさんに聞いてみた。
「今の話本当ですか? 俺は、この世界で冒険者として成り上がりたいんです。そしていつかは、俺を捨てた女神に復讐したいんです。だから、この世界のこと、もっと教えてくれませんか? 俺は幸村幸夫っていうんです。よろしくお願いします」
クロは少し困った顔をした。
「女神様に復讐? おいおい物騒だな。ゆき・・、すまんが、お前の名前が長すぎて聞き取れないんだ。ここではみんな本名を名乗らず、通称を名乗っている。俺もクロード・ジルフォードっていう名前だが、長くて誰も覚えてくれないからクロと名乗ってるんだ。お前も短い通称を名乗ってくれ。あと、敬語は必要ない。話はそれからだ」
へぇ、俺の名前が長いか……。まあ、どこかの誰かが言ってたもんな。その場所に行ったらその場所の習慣に合わせろって。
俺の通称か……名前と、生まれつきの悪運の良さがあるから、これにしよう。
「わかった。俺のことはラックって呼んでくれ。生まれつき悪運だけはいいんだ」
「ラックか。よろしくな。じゃあ話すが、この世界では王族や貴族、土地や店を持っている奴、そこで従業員として働いている奴以外は冒険者になるしかないんだ。要は、冒険者ってのは土地や店を相続できない次男や嫁に行けなかった女がやるアウトサイダーな仕事ってわけだ。俺も次男で店を継げずに仕方なく冒険者になったって口さ」
え、この世界じゃ冒険者ってなりたくてなってる仕事じゃないのか。ラノベとかじゃ、冒険者は異世界じゃ花形の仕事じゃなかったっけ?
「冒険者は世界中にあるダンジョンや、魔物が巣くう建造物に入って、魔物を倒した素材や獲得したお宝を売って暮らしている。もちろん、ギルドのクエストもこなしながらな」
クロは、少し厳しい表情を見せた。俺は黙って聞いている。
「だが、正直言って冒険者はとても危険な仕事だ。油断してるとすぐ死んじまう。そして、死んだら基本的に生き返られない。教会に高額なお布施でもしなけりゃな。だからみんな安全第一で、自分のレベルにあったところで活動してるんだ」
俺は驚いた。死んだら生き返られないという現実世界では当たり前のことを、現実として突きつけられたからだ。
ここはファンタジーRPGなどとはほど遠い場所なんだ。
「今の話本当か? もしかして、この世界の冒険者ってかなりやばい仕事なんじゃないの? それ以外の、できれば安全な仕事はできないのか」
クロは首を横に振った。
「選ばれて勇者パーティにでも入らない限り、異世界人はここに飛ばされて強制的に冒険者行きだ。どこかの従業員になる奴もいるが、それだけじゃ到底食っていけないからな。クエストをこなしたり、ダンジョンに潜らなきゃ野垂れ死ぬぜ。そもそも金がないと住む場所もないからな。なあラック」
と話を切ったクロは更に怖い顔をした。
「冬の寒い時期に路上で寝る自分を想像できるか?」
クロの発言に思わず身震いする。
「い、いや無理だろそんなの」
「そうだろ? 豊かな異世界からきた異世界人は、だいたいまずこっちの生活の苦しさにびびっちまうのさ。異世界人が来るようになって1月くらいだが、すでにこの世界に適応できずに、金がなかったり魔物に殺されたりして死んだ異世界人が何人もいるんだ」
は? 転生者が何人も死んでる?
俺が絶句していると、クロはなだめるように言った。
「まあ、冒険者ってのは生まれつき持ってる能力で何ができるか決まるが、努力でなんとかできなくもない。俺は家を追い出されたけど、そこから命がけで頑張って成功して、今ではこの町の冒険者の顔役ってわけだ。お前も努力次第じゃここで生きていけると思うぜ。たぶんな」
ええ、異世界ってこんな過酷なの? 生きて日本に帰れるよな? だよな?
……でも、今すぐ帰ってもどうせ面白くないしな。日本でも勉強とか仕事でみんなヒーヒー言ってると思うし。
どうせ異世界来たんなら、ここで成り上がってやる。
それに、あの女神に借りを返すまで絶対帰らないって決めたからな。
「話はわかった。ありがとうクロ。ここで冒険者として生きていく覚悟ができたわ」
俺がそう言うとクロは穏やかに笑い、助言をくれた。
「これから冒険者同士よろしくな、ラック」
俺はクロと握手をした。
「お前は新人だから、まずは冒険者ギルドに行った方がいい。冒険者ギルドでは懸賞金付きのクエストが受けられるからな。冒険者には必須の場所だ。あとは、パーティーメンバーを探した方がいい。アンカールドでは4人パーティーが基本だ。酒場や人と交流できる場所に行くといいだろう。ダンジョン攻略や未開地へ行くのには、パーティーに入っておかとかないと無理だからな」
俺はうんうんと頷く。パーティーか。確かに仲間はほしいな。
「まあ、今のお前は無一文だから、まずは自分のスキルを生かして他のパーティに臨時で入ったり、バイトしたりして小遣い稼ぎするといいぞ」
ん? 今バイトって言った?
「小遣い稼ぎ? バイト? この世界にもバイトがあるのか?」
「ああ。お前は俺が見る限りどうやら弱そうだが、運はかなり良さそうだからな。ギルドに行けば詳しく見られるから確認した方がいい。運がいい冒険者がパーティーにいると、モンスターを倒したときのドロップ品が良くなるんだ。とても運がいいとレアドロップ品が出ることもある。お前の運を借りたいってパーティーはきっといるさ。最初はそれでこの世界や冒険者に慣れるのがいいんじゃないか。ギルドはここから右に行ったところだ」
俺は運がいいだけで弱いと言われたけど、それほんとか? でも、運にそんな使い道があるのか。
「ありがとうクロ。じゃあギルドに行ってみるわ」
「ああラック。君のアンカールド生活に幸あれ」
そう言うとクロは去って行った。
クロっていい奴だったな。いろいろ教えてくれたし。
でも、路上生活はどうしても避けたい。だから、まずはクロの言う通りギルドに行ってみることにした。
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