第3話:剣士カルミア
「剣士カルミア様!」
入ってきたのは剣士カルミア。騎士団の精鋭の一人で今は聖女達を中心に教会関係者の護衛をしているとのこと。
マイルドな性格だけど、今こそその役目を果たすときだぞ!
「聖女ラナンキュラス様! こんなとことろに!」
「剣士カルミア様!」
「ちっ……」
主人を見つけた犬みたいに笑顔が弾ける剣士カルミア。視線で助けを求める聖女ラナンキュラス。厄介なやつが来たと察したのか舌打ちをするゴルゴンゾーラ。
段々ややこしくなってきたな。
「これは剣士カルミア様! 普段、貴族エリアてしかお目にかかれない方が、どうしてこの様な場末の飲み屋に?」
剣士カルミアを聖女ラナンキュラスの隣に座らせると、すかさずその横にゴルゴンゾーラが座りカルミアと肩を組む。
「僕は聖女ラナンキュラス様の護衛だからな」
「そうなんですか! 騎士団って暇なんですか?」
「いや、決してそんなことは……」
「まあまあ、一杯飲んでください」
ゴルゴンゾーラの合図で剣士カルミアの前に酒が出された。あれってかなり度数が高いやつだ。ウォッカ並じゃないかな。普通は小さなショットグラスで飲む酒だ。しかし、今テーブルの上にあるのは普通のコップ。
あれはあからさまに剣士カルミアを酔い潰す気だな。やつも馬鹿じゃないだろうから、そんな見え透いた手にはひっかからない……って、おーい! ものの5分で酔いつぶれたぞーーーっ!
剣士カルミアはテーブルに突っ伏してしまっている。それ以上の活躍を期待できそうにない。
「じゃあ、行きましょうか。聖女ラナンキュラス様」
「え!? どちらに!?」
あ、やばいかも。聖女ラナンキュラスが連れて行かれそうになってる。
(ガタッ)俺が席を立とうとしたのとほぼ当時だった。
(バンッ)「聖女ラナンキュラス様!」
今度は年配の男、教会のロックウォール神官長だった。
「こちらでしたか、聖女ラナンキュラス様」
「ロックウォール様!」
「ちっ! 今度はなんだよ!」
なんかデジャヴ。さっきは騎士で今度は神父。違いと言えばそれくらいで似たような光景が目の前にある。
「なんだよ、じいさん! 若いやつらが騒いでるのにじゃますんなよ」
こら、ゴルゴンゾーラ。そのじいさんは神官長だぞ! じいさん呼ばわりして肩とか掴んでいい人じゃない!
「おい、やめろ」
見るに見かねて俺は立ち上がった。
「今度はなんだ!? んーーー!? お前かよ!」
ゴルゴンゾーラ達は神官長のところを離れ、俺のところに集まってきた。
「工業ギルドのガキがなーにいきがってるんだ!? あぁん!?」
俺の顔を覗き込むようにしてガンをとばしてきた。
「だいたいなんだよ、この帽子は!」(バシッ)
ゴルゴンゾーラはやりたい放題だ。取り巻きと3人で絡んできているのでかなり強気だ。いい加減うざいと思ってたところだ。
「なっ! なんだその黒髪は!」
俺は工場ではいつも帽子を被っている。安全性を考えたら常識だ。
だから、ほとんどの人が気づかないんだ。俺が黒髪ってことに。
「黒髪は異世界人の象徴だろ?」
「なっ……!」
俺より背が高いゴルゴンゾーラを見上げるように睨むと一瞬やつが怯んだ。
「エース!」
聖女ラナンキュラスが走ってきて俺の後ろに隠れた。
「な、な、な、なんだよ聖女ラナンキュラス様! そんな根暗なやつの後ろに……!」
俺は異世界でも陰キャ扱いかよ。
「べーだ! エースは私の幼馴染なんですーーーっっ!」
「はぁ!?」
子供か! べーって!
……そう、聖女ラナンキュラスはこの世界での名前。彼女の本名はフルネームで「清ら川 静」。そして、俺の名前はフルネームなら「工作エース」。二人ともここから言えば異世界の……日本人だ。
「エース!」
こら、カルミア。お前の仕事は聖女達を守ることだろ。俺の後ろに隠れてどうする。
でもまあ、騎士団って上品というか、お行儀が良いと言うか、戦う前には自らの名乗りをあげて「やあやあ我こそはー」って感じだから、束になって襲ってくる冒険者とは全く違うし、相性はよくないだろう。
「エース殿!」
ロックウォール神官長も俺の後ろに走ってきた。あんたは俺の幼馴染じゃないから! この世界の人間だろ!
それでも、俺の幼馴染の職場のボスだ。無下にすることはできない。
「ゴルゴンゾーラ、もういい加減にしろ」
「なんだと!」
ゴルゴンゾーラが俺の胸ぐらを掴んだのとほぼ同時だった。
(ドガーーーン)建物が地の底から響くような轟音と建物の揺れが同時に発生した。
■
あと2話。
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