第3話 推されすぎた魂① ― 完璧すぎる英雄の違和感

この魂に、最初の投資が入ったのは──

神界歴第六大周期、冬期観察シーズンの初日。

天蓋層の光が雪のごとく降り注ぐ中、ひとつの展示星が新たに点灯された。


星名はオルディア。

剣と魔法の支配する戦乱の大地。

封建制と血統主義が色濃く残る王国群のあいだに、終末的な災厄が迫るという、

**“王道的構造”**を徹底的に強化した準中型展示世界だった。


この世界における記憶保持転生者第1号として、

魂選出されたのが、彼──レイ・カルストである。





魂番号:《#K7-4011-V3》

転生世界:オルディア星(剣と魔法/戦乱封建制/英雄演出特化)

支援構成:記憶保持(制御型)、SSRスキル×3、因果律リスタート、血統特権、英才教育パッケージ

魂出自:旧展示世界“地球”(事故死処理・魂干渉痕あり)

記録観察責任者:飼育神アリシア(本記録執筆)

評価:演出反逆型・魂統制逸脱個体(再生不可/倫理干渉警戒指定)



彼は“英雄”として設計された。

いいえ、正確には「魂の希望となる象徴的存在」として、徹底的に構築された魂だった。



ある観察神は当時の神界メディア取材でこう語っている:


「この子は、ただの主人公じゃない。

すべての魂に、“推される理由”を与える存在になるの」


その言葉に違わぬ投資が行われた。

SSRスキル3種(属性分散型)、魔法適性Sランク、記憶保持(制御型)、

さらに英雄家系の血統、王国公認の出生記録。


死亡時に任意地点まで巻き戻せる「因果律リスタート」機能も実装され、

転生先には最上級の教育と導線が用意された。


そして彼は、鮮やかに転生した。


10歳で宮廷に招かれ、魔法の才能により「第二の光翼」と称され、

12歳で戦場に立ち、初陣を勝利で飾る。

14歳には将軍として軍を率い、17歳で暗黒竜ガルダロスを討伐。


神界製アーティファクト【因果律干渉剣〈グレイア・セルヴァ〉】を手にし、

英雄譚の中心へと駆け上がった。


その顔は国中の広場に彫像として刻まれ、

祝典では彼の名を冠した楽曲と詩が朗読されるほどだった。



──だが、彼は微笑まなかった。


いや、微笑むべき場所では微笑んだのだ。

勝利の祝宴でも、街の子供たちの前でも、彼は完璧に“英雄”であった。

だが、それはまるで仮面のようだった。


彼が夜、口にした言葉がある:


「すべてが整いすぎている。

勝利も、友情も、愛さえも……誰かが用意した気がする」

「俺はこの人生の“答え”を、最初から手にしている」


観察神の間では、彼の精神異常を懸念する声も上がった。

だが私は──彼が正しかったと思う。


彼は、“誰かに推されて得た人生”に、

魂としての根源的な違和を感じ取ってしまったのだ。


演出された悲しみ、予定された友情、用意された戦い。

どれもが、美しい舞台装置のように完璧すぎた。


そして彼は、ついに気づいてしまった。

この星の演出の向こう側に──「誰か」が存在することに。

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