《久しぶり》

「モグラ……さん」

「この姿は、久しぶり、だな……。はぁ~、疲れたぁ……」

 モグラは濡れた海月の身体をよじ登り、肩へと乗った。ずっしりと重みが増すが、それは安心できる温かい重みだ。

 モグラは身体を震わせる。震わせた水しぶきで海月は顔に水滴が降りかかった。水が目に入った感覚が懐かしい。助けてくれたときを思い起こさせた。

 濡れた衣服で目元を拭い去る海月にモグラは言い放つ。「火の神は……火実はお前の支配下に置かれた」その言葉は真剣だが動物の姿のおかげで可愛さの比重が大きい。

「俺の支配下……ですか?」

「そう。これで火実は名前を呼んで命令する限り、海月の支配下に置かれる」

「……どういう意味なのかさっぱりなんですけど」

「それが神々の約束みたいなものだ」

 どういうことか不明だがそれでも良かった。雨がやみ虹にかかる。奇麗だな、なんてふと思った。

「俺の術が間に合って良かったぁ……」

 モグラが海月の頬に寄り添う。ふわふわしていて少し硬質で、でもさらさらした毛に海月も安堵して息を吐いた。

「くそ……海の、モグラ、め……。もうちょっとで、供物を食べられたのに……」

 火実が悔しそうに赤いニワトリの姿で睨みつけた。モグラは勝ち誇った顔を見せている。

 だがこの状況を理解できずにただじっと見つめる双子が居た。三重と甲斐だ。二人は人間であったモグラと火実が動物へとなっている姿に――興奮した。

「これってどういうことだよ、海月!?」

「どういうことですか!??」

 折り畳み傘を海月に即座に返し、双子はニワトリになっていて力を消耗している火実を抱き締めたのだ。

 小さなモグラになっているモグラは動物フォルムで「とりあえず、家に帰ろうぜ~」などと間抜け面で欠伸した。

「かわいい」

「え?」

 海月は不覚にもモグラを可愛いなと言ってしまったのであった。

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