《星に願う》
満点の星空に目を躍らせながらモグラと共にバス停に向かっていた。空気が澄んでいて、しかも月も見え、星空も見えるなんて贅沢だなと海月は思いを巡らせる。そしてあることに気が付いた。
(……もしかしたら、モグラさんがこれを見せたかったから、……なんて)
ふとのんびりと歩いているモグラを傍目に海月は内心で思いに耽った。
仁田宅からバス停までは二十分ほどかかるが、バスは意外にもあるので育児で忙しい仁田に頼らずとも帰ることが可能なのだ。
満点の星がまるでこちらにも飛び込んできそうだ。海月は吐息を漏らす。「また言っちゃいますけど奇麗ですね、星」
「本当に奇麗だよな~。さすがバスで一時間はかかるけれど、行ってよかったなって思うよ。……バスの交通量が多いのも、そうなのかな?」
「不便だから区民が訴えたんじゃないですか?」
「そうかもねぇ」
間延びした様子で話し出す海月とモグラではあったが、ふとモグラがこちらを向いた。モグラの王子様のような顔立ちは、星空だときらめく星の王子さまのような雰囲気を醸し出される。……チャイナ服であるが。
「さっきの占い、どういう意味なんだろうね。三重くんと甲斐くんのこと」
「知りませんよ、そんなの。でも、なんかまたやらかすんじゃないですか? まぁ、俺のことに関わっているとは思いますけど……」
「だとしたら、油断大敵だな。海月、もう少し自分を大事にしろよ?」
モグラのふとした言葉に海月は声を躊躇った。自分を大切にしろ――なんて、自分なんてと思ってしまう。自分のような人間は居なくていい。存在などしなくていいと思っているのに。
「……ありがとう、ござい、ます」
でも、それでもこんなに心が温まるのはどうしてかを海月は自分の気持ちを把握できていない。心が灯ったような思いだというのに。
海月は、満点の星空を見上げ心の中で祈る。目をぎゅっとつぶる。海月はこのとき、自分に本当の心が宿るようにと思ったのかもしれない。
モグラは海月に手を伸ばした。「さぁ行こう」
「……はい」
チャイナ服の王子に連れられて二人はバスに乗って帰ったとさ。
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