《天界に帰るよ、俺》
「おっじゃましま~すっ!」
「お邪魔しますっ。海月さん、ご気分はいかがですか?」
「いえいえ。風邪ではなくて、ちょっと用事で……」
三重や甲斐は見舞いのつもりで購入したゼリー飲料やらスポーツドリンク、それと大量の虫をくれた。虫を見た瞬間、海月もだがモグラの目が輝いた。
「こ、これはっ!? 新鮮なセミやカブトムシっ! いやぁ~、嬉しいねっ、ね、海月っ?」
「はいっ! これは大変貴重ですねっ。あ、ゼリー飲料もスポーツドリンクもありがとうございます。重たかったでしょう? ありがたいです」
早速モグラはカブトムシやセミを捌いていた。ミーンっ! という泣くような声が聞こえているが、双子は唖然としたまま火実へ話しかけている。
「なぁ、火実? なんか海月、普段より表情が豊かじゃね?」
「なんか変な物でも食べちゃったんですかね? どうしたんだろう。やっぱり風邪かな?」
「あ、いや……。三重に甲斐。これには深い訳があってな……」
するとそこへ冷茶を持ってモグラがやって来た。ちなみにお見舞いという名のお土産を持って来てくれたので、茶葉から淹れた冷茶をくれた。ちなみにそれは人数分ある。
三重に甲斐、火実に楓、海月に……新入りの海竜だ。モグラとかなり似ている海竜に双子は首を横にする。三重が先に声を掛けた。
「あれ、モグラがここにも居るぞ?」
「モグラではない、私は海の神だ」
「海の神って、あの噂……の?」
甲斐がかなり驚嘆しているが三重は海竜を急に抱き締めた。海竜が驚き、楓が真っ青になっているが三重は海竜の匂いを嗅いでいる。まるで動物のような行動である。
「よし、火実と似ている香りがするから悪い奴じゃないな。あと、可愛いから許す」
「なっ、あんた……可愛いから許すって、海の神様になんてことを……」
「うっせぇな、女。俺はこいつがしたことをよく知らねぇけど、海月にとっては悪い奴だって言うのは知ってる。でも、過去は過去。今は今だ」
それから海竜を離して背中を擦り、そして火実を抱き締める三重に甲斐は兄がなにを言いたいのかがわかったような気がした。とりあえず色々あったが、許してやろうというのが三重の意向なのだ。
それは楓にも伝わった様子だ。「まったく、何様なのあんたは……」
「俺は俺だよ、その、か、か、……楓」
急な楓呼びに楓は少し赤面した。普段は対立しているからどうして急に許す気になったかは知らない。だが、それでもやはり嬉しかったようだ。
「ま、まぁ……、それならいいけどねっ! ふ、ふ~ん……」
甲斐が楓の様子を見て少し嬉しそうだ。そんな中で楓は冷茶を飲んだ。氷の入った茶葉の香りがする冷茶は風味があって美味だ。涼やかな香りとコクとうまみは一口飲んだだけでも口の中に広がる。
それから良い香りがした。モグラがなにかを作ってくれたようだ。ちなみに先ほど食べていた海月もなにかしら食べるようだ。モグラがウキウキした様子で喋り出す。
「みんなぁ~できたよぉっ! セミの唐揚げにカブトムシともやしのナムルに――」
「「いや、食べませんっ!!!!」」
「……と、普通のもやしのナムルを使った温玉乗せのビビンバです」
最後の方がやけに悲しげに聞こえたが火実と海月以外は本格的なビビンバ丼を食べていた。意外にもキムチは自家製らしいがそこまで辛くない。うまみが広がるといった具合だ。ちなみに小エビを入れているらしい。
「いやぁ、ビビンバ丼がこんなに好評だったとはねぇ……。作って良かったよ!」
「また作ってくださいよ、モグラさん!」
「……それは、無理かなぁ」
「――――えっ」
セミの唐揚げを食べていた海月は箸を落しそうになった。モグラの残された時間はあともう少しだというのをなんとなく察したのだ。「……モグラさん、俺は、俺は」
「駄目だよ、海月。お前が言ったんじゃないか。いつまでも見守ってくれる神になって欲しいって。俺だって本当は嫌だよ。でも、海月がそう言ってくれたから、――今は胸を張って行動できるし、断言できる」
周囲が海月とモグラの言葉に耳を傾けた。それからモグラは皆に放った。「天界に帰るよ、俺」
周囲は静かになった。
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