《わちゃわちゃ》

 仁田との電話を切ってからモグラは息を吐いた。「はぁ~、やっぱり兄貴に殺されかけたから疲れたよぉ」それから動物フォルムとなり、海月の肩によじ登る。

 疲弊している様子のモグラに海月は少しはにかんでモグラの身体に触れる。硬質な毛並みに意志の強さを感じさせるのはどうしてか。

「おい、供物」

「俺は海月ですよ? 海竜さん」

 海竜はモグラフォルムで海月を見上げてから「海月よ……」などと憎たらしげに話し掛けた。「私を元に戻してくれないか? この姿は、その……なんというか」少し頬を赤らめている様子の海竜に今度は火実がニヤついた。

「ほほぉ~。ようやく俺の気持ちがわかったか、海の神、いや。海竜よ。今までさんざんっ、上から俺たちのことを見下げていたのだからこれぐらい――」

「海月、火実をニワトリに」

「はい、モグラさん。火実、――ニワトリの姿になってっ!」

「え、あ、ちょっ――――!???」

 すぅっと息を吸って海月はモグラに言われた通りに火実をニワトリの姿にした。モグラは悪戯な顔をしている。すると火実はモグラへ飛びかかろうとした。

 しかしモグラは瞬時に楓の傍に寄り、火実は海月の顔にダイレクトアタックをしていた。だが海月は痛そうにしつつもキャッチして火実を抱き締める。

 それから火実の匂いを吸い込んでいた。火実は身を震わせた。

「な、なにしているっ! このぉ、へんたいっ!」

「いやぁ、やっぱり良い匂いだなぁと思いまして。あの双子が匂いを嗅ぐ理由がわかるというか」

「わからんでいいわっ!!」

 バタバタと身体を震わせる火実を抱き締めて匂いを嗅いでいる海月に今度はモグラが近寄る。それから海月の身体に再びよじ登った。海月はそれに気が付いたようだ。

「あっ、モグラさん。どうしたんですか?」

「……不倫はよくないぞぉ、くらげぇ? 俺という者がありながらっ!!」

 海月は火実へ短い足で回し蹴りをして離れさせてから海月に近づいた。それから海月に匂いを嗅がせる。モグラも太陽のような匂いと少し潮の香りもするような気がした。

 火実がのこのこと起き上がり、モグラに狙いを定めた。「このモグラ野郎がぁっ!!!!!」

「うるせぇっ、ニワトリ野郎っ!」

「誰がだっ、この変態モグラぁっ!!!!」

 二匹が離れてバトルを勃発していると楓の傍に居た海竜が疲弊の息を吐いた。

「……早く天界に帰りたい」

「まぁ、海の神様。こんな能天気な展開になったらそうなりますよね、普通……」

 楓も同情しているとピンポーンというチャイムが鳴った。海月はバタバタと出て「はい」と答える。すると画面のモニターには双子の三重と甲斐が居た。

『ちわーっ! 今日、占いやっていないから来たぜぇ!』

『お見舞い持ってきましたよぉ~。あと火実さんに会わせてくださいっ!』

 どうやら海月は風邪と勘違いされている様子だ。海月はそんな二人を追い払うことなどせずにエントランスのドアを開ける。「……ありがとうございます」そう海月が告げた時に、双子が驚きで目を見張っていたのがおかしくて仕方がなかった。

 喧嘩がまだ絶えずにいる二匹に海月は二匹を摘まんで話し掛ける。「三重と甲斐がこっちに来ますよ、嬉しいですよね?」

 火実が身体を震わせていた。どうやら嬉しいらしい。そしてモグラは前足で頭を掻いてから人間の姿になった。

「だったらお茶でも出さないとねっ。はー、忙しいっ!」

 だが嬉しそうなモグラに海月もにこやかにしていたのだ。

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