貴方と私のチーズウェディング
ヨル
第1話チーズのように蕩けた猫を虎は愛でる
調理器具や、キッチン周りの雑貨等を販売する、小売業者『
デンマーク語の“HYGEE”(ヒュッゲ)とは、デンマーク人がとても大切にしている、時間の過ごし方や心の持ち方を表す言葉だそうだ。
ほっとくつろげる、心地よい時間や空間を提供したいという思いで付けられた会社の名前は、そのまま『ナチュラルキッチン・ヒュッゲ』という名前としても使われている。
そんなヒュッゲ社内にて、商品部仕入担当であり主任の
この二人は、つい先程恋人同士になった。
基一からの、かなり強引で、且つ突発的なアプローチに陥落させられた。
いや、陥落せざる得なかったが正しいのか。
普通であれば、『付き合いましょう』と口説く所から始まるであろう、交際の始まり。
それを基一は『誤差』だと豪語し、『結婚しよ?』とプロポーズしてきたのだ。
ただの部下であった温子に。
有り得ない提案であるにも拘わらず、温子が何故、いとも容易く陥落したのか。
これは、基一の人柄では無いかと、後になって考えた温子は思った。
基一は、他人の心の中に入るのが上手い。
職場でも、基一を羨む者はいても疎む者はいない。
そして基一の口から紡がれる言葉は、不思議と誰よりも説得力がある。
他の誰かと、温子が基一と同じ関係性を持ったとして、同じ事をされても、温子は陥落しなかった筈だ。
常識範疇外だ。
基一の、不思議と人を安心させる声と、余裕たっぷりな態度と笑顔が、温子に『説得力』を与えた。
勿論、普段から接している仲だ。
基一の
そんな訳で、さけるチーズ料理を堪能した二人は、温子の部屋でノンビリ過ごす。
初めて訪れた筈の基一は、不思議と温子の部屋に馴染んでいる。
まるで、そこに居て当たり前のように。
元々、職場で気負いなく会話が出来る仲ではあった。
温子も社会人なので、初対面の人と話す事は出来る。
しかし人見知りな面も持ち合わせている為、プライベートの付き合いをする人は限られている。
そして昨日までは、職場の人で自宅まで招く程の仲の人は居なかった。
隣りに座って寛ぐ基一。
違和感を感じない事に、違和感を感じる。
「…ん?何?」
基一の顔を、無意識にジッと見ていた温子の視線に気付き、基一は温子を見返した。
多分、思っていた以上に、自分は基一に懐いていたという事なんだろう。
基一の傍で、笑って、会話して、ふざけ合って、怒ったフリをして…。
誰でもない、基一だから気兼ねなく過ごせる。
そしてこれからは、甘える事が出来る。
そう思うと、ジワジワと喜びを感じ始めている。
それはつまり、温子も基一と一緒で、
傍で過ごすと楽しくて、居心地が良い。
それを、これからは『恋』として捉えても良いのだ。
不思議と安堵した気持ちになった。
そして、今感じている『嬉しさ』こそ、基一に対しての感情。
『恋』なのだろう。
「…別に。…なんでもないですよーだ」
妙に照れくさい。
温子はほんのり顔を赤らめながら、そっぽを向く。
基一は、そんな温子の頭を自分の肩に抱き寄せる。
「…うひゃっ」
「おい、随分と可愛い反応するな。いいぞ、いいぞ。これから徐々に加速度を増して可愛がっていくからな?」
照れている温子に、基一は宣言する。
「結構ベタベタに甘やかすの好きだから、覚悟しろよ〜」
そう言うと、寄せられた温子の頭の上に、傾けられた基一の頭が寄り掛かるようにくっついた。
「…ベタベタ…」
「そう。そしてイチャイチャ。」
今まで、基一と温子の間には無かったワードだ。
更に顔に赤みが増す温子。
そんな温子の頭を、基一は軽く撫でた。
◇◇◇◇◇
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