第3話 あ~、チミチミ。チミに任せるよ

「あ~、チミチミ。チミに任せるよ」


 ………………はぁ?


 今から数ヶ月前のこと。

 王国軍に所属する一介の下級官吏である僕にそう告げたのは、つい最近『兵站幕僚長』に就任したばかりの【ウーヴェ・ルンゲ】侯爵。


 この小人族かと見まごうばかりに小柄で、しわくちゃな老人では、過去には【狡狐】とまで呼ばれたほどのお方らしい。

 多くの名将を抱える王国が、いまいち勝ちきれていない原因は補給に問題がある、と判断した王太子殿下の肝入りで、かのお方は兵站の責任者として現役復帰を果たしていた。


 そんなお方だが、どうやら少々ボケてしまっているようだ。

 新たに13番目の輜重隊を設立するという会議の席上で、このお方はよりにもよって末席に座っていた僕をその責任者として指名したのだ。


「あの~、お言葉では……」

「いや、さすがはルンゲ卿。着任して間がないにも関わらず、優れた人材を見抜くとは」

「左様、左様。ご明察でありますな」

「ええ、この者は私の部下の中でも特に優秀でして、必ずやその任を果たすことでありましょう」


 さすがに、そんな責任を負わされてもムリだと僕は主張しようとしたのだが、事なかれ主義を貫く上層部のお歴々がこれに賛成する。

 ちょ……ちょ、待てよ。

 何だよ、そのあからさまに仕事を押しつけようとする言い様は。


 特に僕の直属の上司ときたら、普段は僕のことを役立たずだとか、無能だとか罵るくせに…………。


「いやはや、どうなることかと思いましたが、何とかなりそうですな」

「ホッホッホ……、重畳、重畳」

「まぁ、あの無能には何も出来ないでしょうから」

「そうですなぁ。そして、そのミスを槍玉に上げれば……」

「王太子たっての希望とは聞いていましたが……」

「かっての【狡狐】も寄る年波には勝てなかったということですかな」


 コソコソと、そんなことを話しては醜悪な笑みを浮かべる兵站幕僚の方々。


「……ん?何か言ったのかね?」

「いえいえ、何でもございません」

「こちらの話でございます」


 ルンゲ様の耳が遠いことを知っているので、そう尋ねられてもとぼけるお偉方。

 ルンゲ様には聞こえなくても、当事者の僕にはちゃんと聞こえてるぞ。


 そんな思いを抱きながら、上層部の連中を睨み付ける。


「ん?どうしたんだい。アルベルト。まさか、幕僚長閣下のご判断に不服があるとでも?」


 すると、僕の視線に気づいた上司が、笑顔でそう尋ねるてくる。

 だが、その瞳は決して笑っていない。


「い……いや、ありません。不肖な身でありますがお受けします」


 …………ちくせう。


 こうして、僕は13という不吉な番号を与えられた輜重隊の責任者となったのであった。


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