聖女みたいな彼女との夏
斗花
第1話
7月の中頃、翌月のスケジュールを職場で渡された。確認して、俺はガッツポーズを取る。
そんな俺を見て横にいたギターのフクが不思議そうに俺を見あげた。
「おーさわ、どうしたの?どっか行くの?」
俺は8月の中旬に書いてある連休を指す。
「ここ!詩織の連休と被った!!!」
「え?!まじ?!
詩織ちゃんに連休って存在するの?!」
彼女の
ハッキリ言って去年の秋過ぎまでは超絶ブラック企業で俺も何度か辞めることを勧めたけど、クリスマスの前くらいに労働環境が見直されてから、少しだけまとまった休みも取れるようになってるみたいだ。
「8月はそもそも、ケーキ屋ってそんなに忙しくないらしくて、夏は順番に連休取れるようになったんだって、今年から。
俺たちもフェスで忙しいから、被るのは結構難しいかなと思ってたんだけど」
俺はスマホで事前に予約しておいた、リゾートホテルの画面をフクに見せる。
「これ!詩織の連休が決まった6月半ば、もしも俺達も休み重なった場合と思って、ここ予約したんだよね」
「相変わらず抜かりないな、大澤」
「詩織と旅行って、もしかして専門卒業ぶりかも。やばい、嬉しすぎて鼻血出そう」
フクは隣で同じくらい喜んでくれる。
俺、大澤
夏は事務所のおかげもあって、色んなフェスに出るため各地を飛び回ってて、秋からは全国アリーナツアーも控えている。
詩織とは高校2年の頃から交際始めて早5年。はっきり言って溺愛してる。
いわゆる芸能界みたいなところに入ったけど、詩織よりも可愛い人を見たことがないし、詩織よりも素敵な人を見たことがないし、多分今後も絶対に現れないだろう。
同棲したいって何度も事務所に伝えているけど、なぜか俺にはストーカーみたいなファンが多く、事務所からはNGを出されてる。
詩織も同棲にはそこまで積極的じゃない。
そのため、休みが不定期かつ少ない俺達は詩織が就職してから週に1,2回しか会えなくなってしまっている。
……わかる?この悲しさ。
高校にいた頃はほぼ毎日会えてたし、学生だった頃は詩織に会うために詩織のバイト先の向かいの本屋でバイトできてた。なんなら、同棲一歩手前までこぎつけてた。
それなのに、バンドが軌道に乗り始めてから、俺が一番好きな詩織とは会えなくなっていくという、この、矛盾。
はっきり言って、俺は詩織不足だ。
「しかも今日、ちょうど詩織が仕事早番で、俺も練習のみというラッキー!」
「よかったな、大澤」
フクは優しく俺を見てからギターを片付け始めた。
俺も、楽器を元に戻してフクと一緒に事務所を出る。
「あ、フク、今日俺車で来たから送るよ」
「お、さんきゅ。
ちょっと駿河さんに呼ばれてるから、駐車場で待ち合わせよ」
バンドを組んだのは高1のとき。
同じ軽音楽部で、俺とフク、他にベースとキーボードとボーカルの5人。
一生懸命楽しんでたら、気づけば結成して6年も経っていた。
気心知れた奴らと、自分の好きな事が出来る俺は恵まれてるなって、就職した詩織や友達を見てると思うけど、同棲できなかったり、時々知らない人に尾行されたりするのは不本意だなって、不満がゼロなわけではない。
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