カウス・ルルプドの警告
千石綾子
プロローグ1 生死の間で見た夢
『どこまでも どこまでも 落ちていく夢を見た』
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あれは確か私が5歳の頃だったろうか。
突然の高熱に私は生死の境を彷徨っていた。
普段なら
この時ばかりは全くその甲斐もなかった。
『 私は苦しさも感じずにただ夢を見ていた 』
『 とても静かに ひどくゆっくりと 落ちて行く そんな夢だ 』
『 深い海の底に降り積もるという雪のように 』
『 この空のどこかに舞い落ちるという天女の髪のように 』
『 まるで止まっているかとさえ錯覚させるような速度を保ちながら 』
『 私の体は 静かに下降して行く 』
『 この世の あらゆる すべてのものを 引き連れて 』
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「正直思わしくない」
灰色の口髭を蓄えた初老の医者は少年の白い胸から聴診器を外し、小さく息を吐いた。
「手は尽くしたんだがね。これ以上この高熱が続くとなると……」
少年に付き添っていた母親はその言葉に表情を変えることもなく、ただ静かに我が子の銀の髪を撫でている。
医者はそんな彼女の様子をじっと見、今度は長く静かに息を吐いた。
「今夜が山になるだろう」
その声は重く簡素な部屋に響き渡る。
母親は立ち上がり、掛けてあったコートを医者に着せ帽子を手渡した。医者は帽子を深く被り襟を立てる。
「今日は医者として言いたくない言葉しか口にできん日のようだ」
己の無力さを責めるかのような苦い言葉に対し、母親はほんの少し微笑んで首を振る。
「こんな遅くに、有難うございました」
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