短編集-曙-

塩田

蒲公英

「ねぇ、おかぁさんこれなぁに?」

「ん?これはね、たんぽぽって言うんだよ。」

「たんぽぽ?なぁに、それ。」

「たんぽぽはね、お花のひとつだよ。チューリップとかひまわりと一緒。だけど、コンクリートとか壁の隙間とかどこでも生えるんだよ。」

「ふ〜ん。すごいね、たんぽぽ!」


4月26日。今日もニュースでは女児失踪事件で持ち切りだ。他にも報道することがあるだろうに。こんなことで必死になる日本は大したこと無いなと思いながら、日本人に反吐がでてゆっくりと溜め息をつく。その日本にしがみついて生きている純日本人の私も甚だしい。ふっと、顔をあげあの子の顔に目を向ける。あの子も笑顔のまま向き返す。動くことのない写真の中で_

4月15日。友達のリコちゃんと遊びに行ってくるーといって、笑顔で扉を開けた。それが、私が見た最後の姿だった。暫くしてからインターホンが鳴り、出るとリコちゃんだった。「ユズハちゃん居ますか?」と濁りの無い声で訊ねてきた。「どうしたの?ユズはさっき出かけたよ。」と私は何気なく答えた。すると、

「いつまで待ってても来なくて、、、ユズハちゃんいつも時間通りに来るのに。」

「え?」私は思わず聞き返した。もしかして、迷子になっているのかもしれない。それとも、、私は嫌な予感がし、リコちゃんと一緒に公園付近を隈なく探した。しかし、その予感は的中してしまった。


私は今もまだどこかでユズは生きていると信じている。いや、信じていないとやっていけないのだ。本当は私だって分かっている。ユズはもう、、、

急な吐き気を感じトイレに駆け込む。ユズが居なくなってからずっとこの状態が続いている。旦那と別れたときもそうであった。シングルマザーとして見られないようになるべく普通に我が子ともママ友とも接していた。なのに、なんで?なんで神様は私をここまで追い詰めるの?あの子を返して、、、!

昔、大学である西洋の童話を見た覚えがある。その物語の中ではたんぽぽが人喰い植物となっている。理由はたんぽぽの英名にある。その名も<Dandelion>。意味は、《ライオンの歯》。





『4月15日に行方不明となったユズハちゃん(7)の靴の片方が発見。近くには蒲公英が咲いている。』


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