第4話 箱が出てきた

 私は術にでもかけられたように、素直にうなずいて、導かれるまま、ほぼ全壊した「奥の院」の、屋根と土砂の間の暗いすき間に入りました。


 すき間の高さは一・五メートルほど、そこに座ることはできます。奥行きはあまりなく、二人で並んで体育座りするとつま先は外に出ます。


 そんなフォーメーションで私と中世貴族さまは会話しました。


「ちょっと失礼するぞ」


 最初に貴族さまはそう言って、私のおでこにそっと手を置きました。


「え、あの、熱はありませんが」


「お前の記憶と知識を読み取らせてもらった。現代人の常識をな。そうしないと、話が通じなくて困る。ありがとうよくわかった」


 貴族さまは私のおでこから手を離すと、「なるほど」とつぶやきながら感じ入った様子でうなずいていました。


「なぜ今になってここを掘り返しているのか不思議に思っていた。神社の裏手と商店街をつなぐ道を整備して人の流れを作り、スピリチュアルブームにも乗っかってどうこうしようという計画なのだな」


 貴族さまは私の記憶の中からこの一帯の再開発計画を読み取ったようです。


「あなたは、もしかして、ここの神社の神さまですか?」


「ん。まあそうだ。お前にはそう説明するほうがわかりよかろう。一応正式には、ここは八幡を祀る神社だから、メインは八幡大菩薩で、私はその八幡大菩薩じゃない」


 肯定されたのか否定されたのかよくわかりませんでしたが、私はこの、突然天から降りて来たかのように現れた貴族さまを、神さまと決めました。


「ここってやっぱり、神社の奥の院だったんですね?」


「ああ、それは間違いない。この神社は、もとは、野川の水の神を祀るために作られたんだが、お前たちの言う鎌倉時代になって、源氏の鼻息をうかがって八幡大菩薩を主祭神にした。八幡は源氏の氏神だからな。ただ、この奥の院にはそれとは別にちょっと特別な事情がある。だから私はお前に声をかけた」


 数百年前の出来事をさらっと語られて、それだけで私の好奇心はネジも歯車も吹き飛んで煙を上げました。その上この奥の院にはさらなる秘密があるとは?


「娘、ちょっとその奥の木くずをどかしてみよ」


 神さまは奥の院があった場所の片すみを指さしました。


 私は、奥の院の崩れた屋根がいつさらに崩壊するかヒヤヒヤしながら、言われた通り、元奥の院の一部であった木くずの山を掘り広げました。


 箱が出て来ました。


 たてよこ二十センチくらいで、高さは5セくらい。付着した土を払いのけると、何やら呪文のようなものが書かれた紙が何枚も全体にビッシリ貼られています。これは封印というものかも知れません。


「なんか箱が出て来ました!」


「おお、それだそれだ」


 私は箱に耳を寄せて、揺すってみました。音はありません。


「こらこら揺するでない。大事な箱ぞ」


「ハッ、すみません!」


 私は瞬時に正座をし、ひざの上に箱を乗せて大事に両手で抱きました。


「その箱をお前の家に持ち帰って、細かく砕き、燃やして欲しい」


「えっ」


「何日かしたら、ここへ歴史の研究者たちがやって来て、発掘調査をするそうではないか。調査はかまわん。ただしその箱だけは、開けられてしまうと困るのだ」


「なぜでしょう」


「箱の中を見るべきではないからだ」


「見てはいけない恐ろしいものが封じ込められているのでしょうか?」


「いいや。中身は空っぽだ」

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