第2話 バス停

 知らない町で私は、どうやって家に帰ればよいか困っていた。すると、道の脇にバス停の標識を見つけてほっと息をなで下ろした。時刻表を見ると、あと十分でバスが来ることを示していた。

 その日は悪いことが続いて、散々だったけどたまにはいい事もあるものだと喜んだ。すると、十分経たないうちに私の後ろに人が並び始めた。最初の一人はサラリーマン風の男の人で、青白い顔のどこか元気の無い人だった。手には黒い鞄を下げていた。

 その人が突然、おーいと叫んだから私は肝を冷やした。私に呼び掛けているのかと一瞬思ったが、そうではなかった。男は手を上げ、まるでタクシーを止めるみたいに車道に向かって呼び掛けていた。しかし、それは一度だけでその後は石のように黙って、私の後ろに立っていた。

 いつの間にかその男の後には、女の人が立っていた。私は、ああもう少しでバスが到着するんだなと安心した。

 と突然、その女の人が叫んだように声がした。それもさっきと同じ、おーいと誰かを呼ぶ声だった。私は段々身震いがして、じっと立っているのが耐えられなくなった。

 女の人は一体何を呼んだのだろう。ちらりと確認してみると、女の人の後ろに男の子が立っていた。時刻は八時を回っていた。こんな時間に子供がいるなんて、塾で遅くなったのかちょっと不気味だった。

 と、また今度はその男の子が声を上げた。おーい。まるで誰かを呼んでいるようだった。何なんだろうと恐ろしくなって、振り返って見てみると、男の子の後ろにお婆さんが立っていた。

 私は手足が震えてきた。彼らが、おーいと呼ぶたびに誰かがバス停に並ぶような気がした。私はもうこんな所に待っているのは我慢ができなかった。私は腕時計を見た。バスの時間まであと数分を切っていた。

 私はこのまま待っていようか、それとも早く立ち去ろうか迷っていた。あと数分待てば済むと、待つことに決めた。ところが、予定の時刻を過ぎてもバスは来なかった。

 私はもう一度時刻表と腕時計を見比べた。

 時刻はとっくに過ぎている。その時、バスの標識の下に紙切れを見つけた。屈んで見ると、そこにはこの路線のバスの運行は廃止になりましたと記されていた。私ははっとして振り返って見た。さっき後ろに並んでいた男の人も女の人も男の子もお婆さんもいなくなっていた。

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