殺人ダイニング<デスにゃんにゃん♡>の裏話

かんぽうやく

1

 成人男性の足が丸ごと一本、オーブンの中で香ばしい焼き目をつけられている。カトラ・フォーカーは上機嫌でその光景を眺めていた。小まめに様子を見ながらも、皿にソースと野菜を敷き、鍋のスープをかき混ぜ、目まぐるしくキッチンを駆け回っている。

 オーブンのアラーム音が鳴る。カトラはぱっとその戸を開いて、トングで角皿を引っ張り出した。こんがり焼きあがった大きな肉が、芳醇な香りを漂わせている。

「よし、完璧ですね」

 カトラは独り言を唱えながら、肉を清潔なまな板に移して切り分ける。脂身の少ない赤身の肉は、牛モモ肉に似ていた。噛み応えがあって満足感が高く、女性客に大人気だ。

「てーんちょ~、四番さんと九番さん上がりました、お願いします!」

 皿に焼き立ての肉を盛り付け、提供口でカトラは店長を呼んだ。人手不足の荒波の中、ホールに駆り出される店長─橋戸沙亜羅はしとさあらが素早く駆け付ける。出来上がったランチを回収すると、足早にテーブルへ向かう。席には若く溌剌とした女性が二人。

「お待たせしました!こちら『浮気男のロースト』でございます!」

 沙亜羅の紹介に、女性客は大笑いで礼を言った。

「アッハッハッハ!最高すぎ!ありがとうございます!」

「美味しそ~!早く食べよ!」

「…ごゆっくりどうぞ」

 晴ればれとした笑顔で肉にかぶりつく客を尻目に、沙亜羅はそそくさと下がった。他のテーブルも待たせているためであり、彼女らの近くから離れたかったわけではない。


 本日のランチメニューは浮気男のローストとDV野郎のプルドミート、サラダにスープ、パンかライス。

 全部冗談だと思われてるんだろうな、と沙亜羅は心の中で溜息をつく。


 ここは関東最凶の歓楽街、花粉木町かふんぎちょう。失踪事件も行方不明者も頻出する町で、路地裏の殺人ダイニング<デスにゃんにゃん♡>は今日も盛況である。

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