第19話 ギャルに挟まれて


 金城と一緒に宿題をした翌日。


 色々あったものの、俺はいつも通り高校へ登校する。


 昨日はなんか急に金城がキレた? のかよく分からないけど、喧嘩っぽい雰囲気で別れたからちょっと気まずさがあるな。

 しかし、そんな理由でサボるわけにもいかないのが高校だ。


 昨日、俺は素直な気持ちを伝えただけなのだが……何かまずかったのだろうか?


 昨日から何が悪かったのか、堂々巡りをしてしまう。

 陰キャからストレートに色々言われるのは、陽キャの金城からしたら気に食わないとか、そんなところか?


 それとも、やっぱり自分で自分のことを可愛いって言いたい年頃なのだろうか?


 どちらにせよ、今日もあのクラスに顔を出さねばならない。


 俺が教室まで来ると、すでに金城と和泉は登校していて、席で楽しげに会話していた。


「機嫌は……良さそうか」


 俺は和泉と話す金城の表情から、怒ってはいないことを確認する。

 そしていつも通りの猫背で教室に入ると、存在感を消しながら、金城の後ろの席にそっと腰を下ろす。


「てか愛希ちゃんまたネイル変えたっしょ」

「まあね。今日は気分的に青よりピンクだから」

「うわ、ピンクめっちゃえっちじゃん」


 ピンクがエッチとか、小学生かよ。


 朝からなんて会話してるんだか。


 俺は心の中でやれやれと肩をすくめた。


「まあ? あーしも昨日ネイルサロン行って超可愛くしてもらったし。見て見て、このリボンとハート、超きゃわだよね?」


 そう言って和泉は金城に爪を見せびらかす。


「うわめっちゃ良いじゃん! これ、駅前のサロンでやってもらったの?」

「そそ。ケアも含めてちょっぴりお高めだったけどね」

「うわぁ……わたしも月末絶対いこ」


 金城は和泉のネイルを見ながら興奮気味に言った。

 俺みたいな陰キャには良し悪しがよく分からないが、なんかリボンとかハートとか、見るからに可愛いって感じの模様が詰め込まれているデザインだった。


 女子ってこういうのにお金使うんだな……。

 おっぱいを吸うことでレベルアップする小説に金を使っている身からすると、謎の敗北感がある。


「ん? にっしー、こっち見てどしたの? あ! もしかして」


 俺が二人の様子をなんとなくぼーっと見ていると、それに気づいた和泉が俺の机に向かって手を出してくる。


「あーしのネイル、見たかったんでしょ? ね、可愛いよねー?」

「え? う、うん……可愛いな」

「でっしょー? 愛希ちゃん、にっしーからお墨付きもらったー」

「…………」


 金城はさっきまでの笑顔から一転、明らかにキレている表情に変わって、俺の方を睨んでくる。


 え、なんでまた急に怒ったんだこいつ……あ! まさか。


 可愛いって、言ったからか⁉︎


「ねえ西山」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「……わたしも、ネイル変えたんだけど、どうよ」


 さっきまでの軽快な口調でなく、重厚感のある低めなトーンで話しかけてくる金城。


 な、なんか圧がすごいんだが!


「えと、そりゃ、もちろん……」

「ねーねー! それより愛希ちゃん!」


 俺が詫び「可愛い」を口にしようとしたら、和泉によって遮られる。

 どんなタイミングで会話遮ってんだこのピンクツインテは。


「……なによ姫奈」

「明後日からのテスト終わったらすぐ夏休みで、約束の花火大会だよ? もう浴衣は買った?」

「もち。めっちゃ綺麗なの用意したし。超映えるから楽しみにしといて」

「ほんとー! 楽しみー!」


 和泉はそう言って金城の機嫌を取ると、俺の方に軽くウインクをしてくる。


 まさか和泉は……空気を読んで俺のこと助けてくれたんじゃ……。


 心から和泉に感謝する俺だった。

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